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【百物語 第九十一話】心霊系ビデオ
僕が体験したほんとにあった怖い話です。
これは、僕がまだ小学5年か6年だったころの話です。
あの頃は、怖いもの見たさで友達と集まって心霊系の映像をよく見ていました。
一人の友達が結構そういうビデオを持っていて、たまに持ってきては僕の家で上映会みたいなことをしてました。
ある日までは…
その日も、友達5人くらいで集まって心霊映像を見てました。
するといきなり、友達Rに本が降ってきました。落ちるような状態じゃない本だったので、少し動揺してしまいました。それでもめげずにビデオを再生し続けました。
もしかしたら、それは警告だったのかもしれません。
少しして、ある交霊術系の遊びをしている映像が流れ始めました。
映像の中で一人の女性の顔がある動物のように変形してしまう心霊現象が起きた時、部屋の中が焚いたお線香の匂いに包まれました。
その瞬間、本能が危険を察知し、ビデオを止め、家の窓を開けて換気をしました。
皆が落ち着いたところで、匂いの原因を考えました。
しかし、家に仏壇があるわけでも、周辺にお寺や墓地があるわけでもなく、更に窓も閉めていたので、やっぱりビデオがまずかったのかもしれない、という結論に達しました。
それ以来、友達で集まることはあっても、友達が心霊系のビデオを持ってくることはなくなりました。
皆さんも、そういったものを見るときは気を付けましょう。彼らは、そういう空気を好みます。
一人の友達が結構そういうビデオを持っていて、たまに持ってきては僕の家で上映会みたいなことをしてました。
ある日までは…
その日も、友達5人くらいで集まって心霊映像を見てました。
するといきなり、友達Rに本が降ってきました。落ちるような状態じゃない本だったので、少し動揺してしまいました。それでもめげずにビデオを再生し続けました。
もしかしたら、それは警告だったのかもしれません。
少しして、ある交霊術系の遊びをしている映像が流れ始めました。
映像の中で一人の女性の顔がある動物のように変形してしまう心霊現象が起きた時、部屋の中が焚いたお線香の匂いに包まれました。
その瞬間、本能が危険を察知し、ビデオを止め、家の窓を開けて換気をしました。
皆が落ち着いたところで、匂いの原因を考えました。
しかし、家に仏壇があるわけでも、周辺にお寺や墓地があるわけでもなく、更に窓も閉めていたので、やっぱりビデオがまずかったのかもしれない、という結論に達しました。
それ以来、友達で集まることはあっても、友達が心霊系のビデオを持ってくることはなくなりました。
皆さんも、そういったものを見るときは気を付けましょう。彼らは、そういう空気を好みます。
怖い名無しさん、投稿ありがとうございました
【百物語 第九十話】団地の女
えーと小学校三年生の時の話なんですけど…
私のいとこの家に私たちが住んでて、いとこの家のお風呂が壊れてたのでいつもお風呂のために通ってたんですね。
親戚の子のお母さんが妊娠して通うのもつらいだろうってことで、その時空いてた団地に引っ越したんですよね。(今も住んでます)
で、小3の時に仲良しだった男の子がいたんですけど、その子も団地に住んでてよく遊ぶようになったんです。
で、ある日の休日ね。男の子仮にYくんとしましょう。Yくんと遊んでたんですよ。
団地には狭い駐車場が2つあって、近くが山に囲まれてて、建物の隣に給水タンク?みたいなのがあるんです。ほんでもって隣に坂があり、その上にお宮さん(神社みたいなの)もあるんです。
私はYくんと二個目の駐車場で遊んでました。秋の終わりくらいだったかな。
向かい側の給水タンクの方から、視線を感じました。
Y『なんか見られてない?』
私『うん、なんやろな~』
私がパッとそっちを見ると寒いのにキャミソールの赤色のワンピース着た女の人がジーッとこっちを見てるんですよね。
給水タンクまでの距離はだいたい80~90mくらい離れてるのではっきり顔は見えないんですけど、見られてるし、女がニタァッって笑ってるのがわかるんです。
Yくんにも見えてたみたいです。
気味が悪くなってYくんと私はお宮さんの坂の下に移動しました。
私がふと坂の上をみたらさっきの女がまたいるんです。Yくんにまたいるっ!と報告し、坂の上を見たらもういませんでした。
これは本当にヤバイと思い、近くの市場に逃げました。
その日はもうでて来ませんでしたが、次の日から登校中や遊んでいるときによく見るようになりました。
いつも女はこちらを見て笑っていました。
団地の人かと思い、お母さんに聞いてみましたが、団地はおろかこの集落にそんな人はいないと言われました。
それから二週間くらいたったときに夢を見ました。
あの女の夢でした。
ただ、女がこちらを見て笑っている夢でしたが、とても怖かったです。
その日を境にもう見なくなりました。
あの女の人はなんだったのでしょう?
※私の団地には“よく出ます”が怖かったのはあの女の人だけです。
※四階なのに人影が通ったり(笑)
補足
いとこの家に私たちが住んでいて、いとこは近くに住んでました。
話とは直接関係無いですが…
で、ある日の休日ね。男の子仮にYくんとしましょう。Yくんと遊んでたんですよ。
団地には狭い駐車場が2つあって、近くが山に囲まれてて、建物の隣に給水タンク?みたいなのがあるんです。ほんでもって隣に坂があり、その上にお宮さん(神社みたいなの)もあるんです。
私はYくんと二個目の駐車場で遊んでました。秋の終わりくらいだったかな。
向かい側の給水タンクの方から、視線を感じました。
Y『なんか見られてない?』
私『うん、なんやろな~』
私がパッとそっちを見ると寒いのにキャミソールの赤色のワンピース着た女の人がジーッとこっちを見てるんですよね。
給水タンクまでの距離はだいたい80~90mくらい離れてるのではっきり顔は見えないんですけど、見られてるし、女がニタァッって笑ってるのがわかるんです。
Yくんにも見えてたみたいです。
気味が悪くなってYくんと私はお宮さんの坂の下に移動しました。
私がふと坂の上をみたらさっきの女がまたいるんです。Yくんにまたいるっ!と報告し、坂の上を見たらもういませんでした。
これは本当にヤバイと思い、近くの市場に逃げました。
その日はもうでて来ませんでしたが、次の日から登校中や遊んでいるときによく見るようになりました。
いつも女はこちらを見て笑っていました。
団地の人かと思い、お母さんに聞いてみましたが、団地はおろかこの集落にそんな人はいないと言われました。
それから二週間くらいたったときに夢を見ました。
あの女の夢でした。
ただ、女がこちらを見て笑っている夢でしたが、とても怖かったです。
その日を境にもう見なくなりました。
あの女の人はなんだったのでしょう?
※私の団地には“よく出ます”が怖かったのはあの女の人だけです。
※四階なのに人影が通ったり(笑)
補足
いとこの家に私たちが住んでいて、いとこは近くに住んでました。
話とは直接関係無いですが…
怖い名無しさん、投稿ありがとうございました
【百物語 第八十九話】修学旅行の肝試し
私は、今中学1年なんですが、小学校の修学旅行での話なんですけど、その時に聞いた話です。
私たちの小学校は、7つほどのペンションに分かれるんです。
そして、ペンションごとに分かれて行動するんですが、そのイベントの中で1番着くまでに話題になったのは ペンションごとの肝試しでした。
でも、やると言うのも噂でしかありませんでした。
確か、2日目の夜、夕食後肝試しをやることに…
バスに乗せられ場所もわからないまま出発しました。
道は、山道で進めば進むほど 明かりと対向車が少なくなっていきました。
長い橋を渡り着いたのは、真っ暗なトンネルでした。
トンネルは、普通明かりがあるでしょう?なかったんです。
まぁ、ちゃんと理由があるんですが…
その、トンネルの前でバスを止めて話がはじまりました。
『このトンネルは、明かりがつけられないんだ』
そんな感じで話がはじまりました。
そのトンネルがあったところには、昔ここで事故があり大勢の人がなくなりその大勢の人のお墓になったそうです。
そして、しばらく空き地だったのですがトンネルをつくるという話になりトンネルをつくることになりました。
工事に入ったのはいいものの足の踏み場がはずれ怪我をしたりと工事がなかなか進まないため1度中止になりました。
が、どういう訳かまた再開したです。
なんとかトンネルはつくれましたが明かりは、つけられなかったそうです。
トンネルができ、一件落着かと思いきや今度は、心霊話がでたそう。
女の人がでるという……
だから、肝試しにいいと思って^_^ と話されました。
行くことになり懐中電灯を持ちバスをおりようとすると…
あ、最後に約束!と3つの約束をしました。
1 振り向かない
2 叫ばない
3 走らないの約束です
その約束でトンネルに入って、バスに帰ってきました。
そのあと、続きの話を聞きました。
先ほどの約束を破ると女の人に追いかけられるそうです。
前に修学旅行で来た女の子が破ってしまい、大泣きでバスに帰ってきて『早く早く!バスを出してください』と言われ、急いでバスをだす準備をしているとドンドンドン!とバスが叩かれたそうです。
この話を聞き帰ることに。するとバスの後ろがドンドンとなりました。
最後の音は、メンバー全員が聞いていました…
少し不思議な体験でした。
もう二つほど体験した話があるんですが今回はこれで失礼します。
長文失礼しました。
そして、ペンションごとに分かれて行動するんですが、そのイベントの中で1番着くまでに話題になったのは ペンションごとの肝試しでした。
でも、やると言うのも噂でしかありませんでした。
確か、2日目の夜、夕食後肝試しをやることに…
バスに乗せられ場所もわからないまま出発しました。
道は、山道で進めば進むほど 明かりと対向車が少なくなっていきました。
長い橋を渡り着いたのは、真っ暗なトンネルでした。
トンネルは、普通明かりがあるでしょう?なかったんです。
まぁ、ちゃんと理由があるんですが…
その、トンネルの前でバスを止めて話がはじまりました。
『このトンネルは、明かりがつけられないんだ』
そんな感じで話がはじまりました。
そのトンネルがあったところには、昔ここで事故があり大勢の人がなくなりその大勢の人のお墓になったそうです。
そして、しばらく空き地だったのですがトンネルをつくるという話になりトンネルをつくることになりました。
工事に入ったのはいいものの足の踏み場がはずれ怪我をしたりと工事がなかなか進まないため1度中止になりました。
が、どういう訳かまた再開したです。
なんとかトンネルはつくれましたが明かりは、つけられなかったそうです。
トンネルができ、一件落着かと思いきや今度は、心霊話がでたそう。
女の人がでるという……
だから、肝試しにいいと思って^_^ と話されました。
行くことになり懐中電灯を持ちバスをおりようとすると…
あ、最後に約束!と3つの約束をしました。
1 振り向かない
2 叫ばない
3 走らないの約束です
その約束でトンネルに入って、バスに帰ってきました。
そのあと、続きの話を聞きました。
先ほどの約束を破ると女の人に追いかけられるそうです。
前に修学旅行で来た女の子が破ってしまい、大泣きでバスに帰ってきて『早く早く!バスを出してください』と言われ、急いでバスをだす準備をしているとドンドンドン!とバスが叩かれたそうです。
この話を聞き帰ることに。するとバスの後ろがドンドンとなりました。
最後の音は、メンバー全員が聞いていました…
少し不思議な体験でした。
もう二つほど体験した話があるんですが今回はこれで失礼します。
長文失礼しました。
椿蝶恋鎖さん、投稿ありがとうございました
【百物語 第八十八話】自分の身に降りかかったら
俺は極度のオカルト好きなんだ。
でも幽霊なんか見たことがなかった。
ところがある日、人工霊(?)タルパなるものを肉眼で見た。
怖すぎて身動きがとれなかった。でも今回はこの話じゃないんだ。
二回ほど金縛りにあったんだよ…。
一回目は午前一時ぐらい、布団に入ったときに外から赤子の泣き声が聞こえてきたんだ。夜泣きかなんなのか知らんがしょうがないから気にしないことにした。
…ところがな、声が近づいて来るんだよ。100mぐらい…50mぐらい…そして部屋の中…最後は布団の中から泣き声が聞こえてきたんだよ!!もぞもぞ動いてるのがわかったさ。ゲームとかではさ、こんなシチュエーションなんともないとか思ってたさ。けど実際自分がその立場になるとおぞましい物を見てしまいそうで体が動かなかった。しばらくしたら静かになったよ。
もう一つは亡くなった母親の声がブツブツと台所から聞こえた。この時も見ようと思ったんだがやっぱり怖すぎて体が動かなかった。
心霊話はいくらでも作り話はあるけど自分の身に降りかかったら本当に何もできないんだと思い知らされたよ。
結局あれは夢だったのか何なのか?タルパのこともあるし未だに疑問に思ってる。
怖すぎて身動きがとれなかった。でも今回はこの話じゃないんだ。
二回ほど金縛りにあったんだよ…。
一回目は午前一時ぐらい、布団に入ったときに外から赤子の泣き声が聞こえてきたんだ。夜泣きかなんなのか知らんがしょうがないから気にしないことにした。
…ところがな、声が近づいて来るんだよ。100mぐらい…50mぐらい…そして部屋の中…最後は布団の中から泣き声が聞こえてきたんだよ!!もぞもぞ動いてるのがわかったさ。ゲームとかではさ、こんなシチュエーションなんともないとか思ってたさ。けど実際自分がその立場になるとおぞましい物を見てしまいそうで体が動かなかった。しばらくしたら静かになったよ。
もう一つは亡くなった母親の声がブツブツと台所から聞こえた。この時も見ようと思ったんだがやっぱり怖すぎて体が動かなかった。
心霊話はいくらでも作り話はあるけど自分の身に降りかかったら本当に何もできないんだと思い知らされたよ。
結局あれは夢だったのか何なのか?タルパのこともあるし未だに疑問に思ってる。
呪われた男さん、投稿ありがとうございました
【百物語 第八十七話】侵入者、あるいは
とあるアパートに1人暮らししていた時の不思議な体験談です。
土曜の夜、普通に眠くなったんで電気消してロフトに上って寝た。
で、寝てたらふと意識が戻った。
みんなよくあることだと思うが起きたというより、「あ、目が覚めた」と頭で思う感じ。
目はまだ閉じてる。
ここからがおかしい事なのだが、普段だとそのまま1回起きてトイレ行ったり、あとどれくらい寝れるか時計見たりするのだがこの時は違った。
目が開けない。
さらには動けない。
そして目を閉じているのに明かりを感じる。
視界が白い。
なんだろうと思っていたら丁度頭の右側から影のような黒が伸びてきている。
実際影だろうと思えた。
何故なら俺が寝ている場所の頭の右側はロフトへ上る為の梯子がある。
そこから人が上ってきている感じがする。
ここまでまだ目を閉じているが目を閉じていても至近距離に人が近づいてきたら気配を感じる。
何だ?
と思っていたら人の気配はロフトに上りきり、律儀に足元右側に移動してから改めて足元から顔の方に向かって移動し始めた。
ここで初めてもしやこれが伝説の金縛りというやつか!?
とか思っていた。
そうこうしているうちに人の気配から実際人に変わっていった。
変な表現になったのは目を閉じているのに人の表情や格好、性別が分かってきたから。
女だ。
髪が結構長い女が顔を近づけてきている。
表情は無表情。強いて言えば普通。
格好は何だろう。OL?
この時点ではまだ頭の中は冷静なつもり。
俺「結構美人さんだ」
俺「そういえば金縛りって半分寝てて半分起きてるから体は動かないが夢を見ている感じって話だっけ」
俺「あ~これは金縛りにあった人は幽霊幽霊言うはずだわ」
とか余裕こいて考えていたが…
考えているの内容とは裏腹にやばいぐらい鳥肌が立っている。
顔に息を感じる。
というか顔面ドアップになった時点で
「そろそろ普通に怖いから取り敢えず目を開けよう」
てことにした。
とはいえぜんぜん目が開かない。
体も動かない。
そしてついに女が俺に触ってきた。
今度は上から順におでこ、喉、胸、腹、右足そして…
俺「やばいやばいやばいやばい」
瞬間。
パッと目が覚めた。
物凄い寝汗。
ドキドキしてて鳥肌も半端なかった。
でも、女はいなかった。
残念。
俺「これが金縛りか。成る程、これは怖いわ」
とか思っていたら
ピンポーン
チャイムが鳴った。
俺「ああ。インターホンで目が覚めたのか」
俺「配達のにーちゃんGJ」
とか思ってたが、それより実は楽しみにしていたとある物が日曜朝に届く予定だったので速攻金縛りは忘れた。
取り敢えず降りようしたのだがロフトから落ちた。
自業自得ではあるのだが何と言うか普段降りるときは梯子に手を掛けてから体の向きを変えて足から降りるのだがこの時は無理だった。
梯子が無かった…。
バランス崩して落ちたが何とか頭から落ちずに背中から落ちたので大事には至らなかったが右足に激痛。
いや、そんなことより右足が机の上のノートパソコンを直撃している。
モニターもろ割れてる…。
俺「やっちまった」
ピンポーン。
だが、宅配のにーちゃんは待たない。
またチャイム。
まあとにかくブツを受け取ろう。
と、テンション駄々下がりで立ち上がりインターホンで返事をしようと受話器に手を伸ばして
停止。
受話器の横の時計。
午前3時。
何だ???
そこでまた頭フル回転。
午前3時に宅配?
いや宅配じゃないのか?
でもこんな時間の来客は有り得ないだろ。
友達だったらまず携帯で連絡してくるよな?
ピンポーン
周りを改めて見てみる。
そういえば何で電気が付いてる?
俺は普段寝るときは真っ暗にしないと寝れない派だ。
昨日は普通に寝たはずだ。
ピンポーン
そういえば何で梯子が無かった?
梯子どこだ?
床に置いてあった。
何で?
フックになってるから人が外さないと地震でも取れないはず。
と、いうことは。
さっきの金縛りが頭をよぎる。
ピンポンピンポンピンポンピンポン…
無視。
俺は自分が家にいる時は鍵を掛けない。
当然鍵は開いている。
もう一度冷静に考えよう。
1.侵入者が家に入ったのか。
2.それとも見事な心霊現象(現在進行中)か?
2の場合は専門家じゃないんでもう仕方ない。
諦めよう。
1の場合は侵入者が1度家に入り、電気を付け、ロフトに上って俺を触って外に出て、で、今チャイムを鳴らしていると。
どっちにしてもおかしい気がするが最優先はやはり1だ。
今の足を負傷した俺ではやられる。
そこで音を立てずに玄関に忍び寄り鍵を掛ける。
まだチャイムが鳴っているが続いてチェーンを掛ける。
これで侵入は不可能。
2は知らん。
余裕が出来たのでドアスコープで外を見るがいない。
誰もいない。
まだ鳴ってるんだけど。
ピンポンピンポンピンポンピンポン…
しかしこのままでは寝れない。
幸いドアをノックとかされているわけではないので最終手段を発動した。
ブレーカーOFF!!
チャイム止まったよ。
流石の侵入者もしくは幽霊?も電源が入っていなければ手も足も出まい。
もう物音も気配も感じない。
寝れる。
真っ暗だが俺は寝るときは真っ暗派だ。
ロフトに上るのは諦めて手探りでソファーに向かい、寝た。
翌朝、やっぱりチャイムで起こされたがちゃんと宅配のにーちゃんだった。
待ちに待ったブツは届いたがパソコン大破したんで意味無し。
おのれ侵入者もしくは幽霊。
以上がアパートでの不思議な体験談です。
体験談なのでおちが無くてすいません。
俺は幽霊を見たことはありませんが他にもこのアパートに住んでいた2年間で色々ありました。
見える人が見たら何か憑いてると言われてもいいのでは、と思えることは結構起こりました。
単に不幸なだけかもしれませんが物的被害とタイミングの不可解さはこれが1番の体験かと。
現在東南アジア滞在中ですがまた暇があったら投稿させて頂きます。
目が開けない。
さらには動けない。
そして目を閉じているのに明かりを感じる。
視界が白い。
なんだろうと思っていたら丁度頭の右側から影のような黒が伸びてきている。
実際影だろうと思えた。
何故なら俺が寝ている場所の頭の右側はロフトへ上る為の梯子がある。
そこから人が上ってきている感じがする。
ここまでまだ目を閉じているが目を閉じていても至近距離に人が近づいてきたら気配を感じる。
何だ?
と思っていたら人の気配はロフトに上りきり、律儀に足元右側に移動してから改めて足元から顔の方に向かって移動し始めた。
ここで初めてもしやこれが伝説の金縛りというやつか!?
とか思っていた。
そうこうしているうちに人の気配から実際人に変わっていった。
変な表現になったのは目を閉じているのに人の表情や格好、性別が分かってきたから。
女だ。
髪が結構長い女が顔を近づけてきている。
表情は無表情。強いて言えば普通。
格好は何だろう。OL?
この時点ではまだ頭の中は冷静なつもり。
俺「結構美人さんだ」
俺「そういえば金縛りって半分寝てて半分起きてるから体は動かないが夢を見ている感じって話だっけ」
俺「あ~これは金縛りにあった人は幽霊幽霊言うはずだわ」
とか余裕こいて考えていたが…
考えているの内容とは裏腹にやばいぐらい鳥肌が立っている。
顔に息を感じる。
というか顔面ドアップになった時点で
「そろそろ普通に怖いから取り敢えず目を開けよう」
てことにした。
とはいえぜんぜん目が開かない。
体も動かない。
そしてついに女が俺に触ってきた。
今度は上から順におでこ、喉、胸、腹、右足そして…
俺「やばいやばいやばいやばい」
瞬間。
パッと目が覚めた。
物凄い寝汗。
ドキドキしてて鳥肌も半端なかった。
でも、女はいなかった。
残念。
俺「これが金縛りか。成る程、これは怖いわ」
とか思っていたら
ピンポーン
チャイムが鳴った。
俺「ああ。インターホンで目が覚めたのか」
俺「配達のにーちゃんGJ」
とか思ってたが、それより実は楽しみにしていたとある物が日曜朝に届く予定だったので速攻金縛りは忘れた。
取り敢えず降りようしたのだがロフトから落ちた。
自業自得ではあるのだが何と言うか普段降りるときは梯子に手を掛けてから体の向きを変えて足から降りるのだがこの時は無理だった。
梯子が無かった…。
バランス崩して落ちたが何とか頭から落ちずに背中から落ちたので大事には至らなかったが右足に激痛。
いや、そんなことより右足が机の上のノートパソコンを直撃している。
モニターもろ割れてる…。
俺「やっちまった」
ピンポーン。
だが、宅配のにーちゃんは待たない。
またチャイム。
まあとにかくブツを受け取ろう。
と、テンション駄々下がりで立ち上がりインターホンで返事をしようと受話器に手を伸ばして
停止。
受話器の横の時計。
午前3時。
何だ???
そこでまた頭フル回転。
午前3時に宅配?
いや宅配じゃないのか?
でもこんな時間の来客は有り得ないだろ。
友達だったらまず携帯で連絡してくるよな?
ピンポーン
周りを改めて見てみる。
そういえば何で電気が付いてる?
俺は普段寝るときは真っ暗にしないと寝れない派だ。
昨日は普通に寝たはずだ。
ピンポーン
そういえば何で梯子が無かった?
梯子どこだ?
床に置いてあった。
何で?
フックになってるから人が外さないと地震でも取れないはず。
と、いうことは。
さっきの金縛りが頭をよぎる。
ピンポンピンポンピンポンピンポン…
無視。
俺は自分が家にいる時は鍵を掛けない。
当然鍵は開いている。
もう一度冷静に考えよう。
1.侵入者が家に入ったのか。
2.それとも見事な心霊現象(現在進行中)か?
2の場合は専門家じゃないんでもう仕方ない。
諦めよう。
1の場合は侵入者が1度家に入り、電気を付け、ロフトに上って俺を触って外に出て、で、今チャイムを鳴らしていると。
どっちにしてもおかしい気がするが最優先はやはり1だ。
今の足を負傷した俺ではやられる。
そこで音を立てずに玄関に忍び寄り鍵を掛ける。
まだチャイムが鳴っているが続いてチェーンを掛ける。
これで侵入は不可能。
2は知らん。
余裕が出来たのでドアスコープで外を見るがいない。
誰もいない。
まだ鳴ってるんだけど。
ピンポンピンポンピンポンピンポン…
しかしこのままでは寝れない。
幸いドアをノックとかされているわけではないので最終手段を発動した。
ブレーカーOFF!!
チャイム止まったよ。
流石の侵入者もしくは幽霊?も電源が入っていなければ手も足も出まい。
もう物音も気配も感じない。
寝れる。
真っ暗だが俺は寝るときは真っ暗派だ。
ロフトに上るのは諦めて手探りでソファーに向かい、寝た。
翌朝、やっぱりチャイムで起こされたがちゃんと宅配のにーちゃんだった。
待ちに待ったブツは届いたがパソコン大破したんで意味無し。
おのれ侵入者もしくは幽霊。
以上がアパートでの不思議な体験談です。
体験談なのでおちが無くてすいません。
俺は幽霊を見たことはありませんが他にもこのアパートに住んでいた2年間で色々ありました。
見える人が見たら何か憑いてると言われてもいいのでは、と思えることは結構起こりました。
単に不幸なだけかもしれませんが物的被害とタイミングの不可解さはこれが1番の体験かと。
現在東南アジア滞在中ですがまた暇があったら投稿させて頂きます。
まとろさん、投稿ありがとうございました
【百物語 第八十六話】ビニール傘
2008年、東京都調布市国領の飲み会で聞いた話。
その時、私は国領である飲み会に参加する機会があった。
一次会が終わり二次会に参加した際に、少し不思議な話を聞いたことを留めて書く。
その人物はAというのだが、 彼は仕事で遅くなり、京王線の終電ギリギリで帰ってきたのだという。
その日は夕方から雨で、宵の口からさらに雨脚が強くなり、深夜にはちょっとした強い雨になっていたらしい。
Aは折り畳み傘を取り出そうとしたが、その日に限って自室に忘れてきたのを思い出した。
やれやれと思いながら改札を抜け、階段を降りる。
彼はそこで一本の放棄されたビニール傘を見つけた。
透明であるはずのビニールは色がくすみ、傍目にもわりと年季が入っていることが伺えた。
元の持ち主は、古くなったのが原因で捨てたのだろう。
渡りに船とばかり、ありがたくその傘を使わせてもらおうとした。
ビニール傘を手にしようと思った瞬間、
―――バッ、と傘が開いた。
誰が手にしたわけでもない。
唖然とするAを前に、ビニール傘はクルクルと二、三度回った後、フラフラ深夜の街に消えていった。
東京のような画一化された都市部でも、まだ妖怪は生きている。
この話を聞いて、なんか嬉しくなった。
その日は夕方から雨で、宵の口からさらに雨脚が強くなり、深夜にはちょっとした強い雨になっていたらしい。
Aは折り畳み傘を取り出そうとしたが、その日に限って自室に忘れてきたのを思い出した。
やれやれと思いながら改札を抜け、階段を降りる。
彼はそこで一本の放棄されたビニール傘を見つけた。
透明であるはずのビニールは色がくすみ、傍目にもわりと年季が入っていることが伺えた。
元の持ち主は、古くなったのが原因で捨てたのだろう。
渡りに船とばかり、ありがたくその傘を使わせてもらおうとした。
ビニール傘を手にしようと思った瞬間、
―――バッ、と傘が開いた。
誰が手にしたわけでもない。
唖然とするAを前に、ビニール傘はクルクルと二、三度回った後、フラフラ深夜の街に消えていった。
東京のような画一化された都市部でも、まだ妖怪は生きている。
この話を聞いて、なんか嬉しくなった。
おこぜの尻尾さん、投稿ありがとうございました
【百物語 第八十五話】山道の家族連れ
200X年のお盆の話。
私の実家はとても田舎で過疎化が進んだ山深い土地にある。
当時高校二年生だった私は日課の犬の散歩をしていたのだが、ふと、いつもの散歩コースから外れて山の中へと入ってみようと考えた。
それは小さな石材店の横から入る山道なのだが、私はその道のことを幼少期のころからある程度は把握していた。
とある方の持ち山で、田舎の事、風習というか山道の脇には幾つかのお墓が置かれている。
山道に入って20分くらいして、私は杉林の隙間からお墓参りをしている家族連れを見かけた。
大人二人に、子供が一人。
時期が時期だけに、こんな山の中にまでご苦労様じゃな~と思いつつ、なんか微笑ましくなって、その家族連れに声をかけてみようと彼らの方に向かった。
しかし、杉林を抜けるある瞬間、私はその家族連れの姿を見失ってしまった。
あれっおかしいな?とは思ったので件のお墓の前まで行ってみると、墓には立ち消えの線香と真新しい花が飾られている。
私はさらに奥の方のお墓に向かったのかなあと思い、せっかくここまで来たのだから、ともう少し奥に入ってみることにした。
しばらく一本道を道なりに行き、少し開けた場所で廃屋を見つけた。
そこから先の山道は人の手が入っておらず、続いてこそいたが倒木に邪魔され、あの家族連れが通ったとも思えない。
私はおかしなものがあるものだとは思ったが、そのままそこにいても仕方ないので今来た道を引き返すとこにした。
うちに帰って山の中であったことを家族に話すと、「ん?あそこ…30年くらい前まで火葬場に使われていたんやで」と教えられ、ついで、あの山道の先が隣町まで続いていることを教えてもらった。
あの家族連れがなんだったのかは今でも分からない。
もしかしたら草ぼうぼうで倒木だらけのあの道を、二時間くらいかけて隣町まで下りていったのかも知れない。
―――私としては、そっちの方がある意味怖い。
とある方の持ち山で、田舎の事、風習というか山道の脇には幾つかのお墓が置かれている。
山道に入って20分くらいして、私は杉林の隙間からお墓参りをしている家族連れを見かけた。
大人二人に、子供が一人。
時期が時期だけに、こんな山の中にまでご苦労様じゃな~と思いつつ、なんか微笑ましくなって、その家族連れに声をかけてみようと彼らの方に向かった。
しかし、杉林を抜けるある瞬間、私はその家族連れの姿を見失ってしまった。
あれっおかしいな?とは思ったので件のお墓の前まで行ってみると、墓には立ち消えの線香と真新しい花が飾られている。
私はさらに奥の方のお墓に向かったのかなあと思い、せっかくここまで来たのだから、ともう少し奥に入ってみることにした。
しばらく一本道を道なりに行き、少し開けた場所で廃屋を見つけた。
そこから先の山道は人の手が入っておらず、続いてこそいたが倒木に邪魔され、あの家族連れが通ったとも思えない。
私はおかしなものがあるものだとは思ったが、そのままそこにいても仕方ないので今来た道を引き返すとこにした。
うちに帰って山の中であったことを家族に話すと、「ん?あそこ…30年くらい前まで火葬場に使われていたんやで」と教えられ、ついで、あの山道の先が隣町まで続いていることを教えてもらった。
あの家族連れがなんだったのかは今でも分からない。
もしかしたら草ぼうぼうで倒木だらけのあの道を、二時間くらいかけて隣町まで下りていったのかも知れない。
―――私としては、そっちの方がある意味怖い。
おこぜの尻尾さん、投稿ありがとうございました
【百物語 第八十四話】向こうの私
私が体験した不思議な話です。
今から20年ほど前ですが、私(以下Oとする)が本社の事務所で残業をしておりました。
時間は20時頃でしょうか。
書類作成をしていて営業所の責任者に確認したいことがあり「いないだろうな」と思いつつ電話を掛けました。
数回の呼び出し音のあと、同じように残業をしていたスタッフが電話に出ました。
私は、そのスタッフを知っていたこともあり、向こうもOだと気付いていると思いつつ「遅くまで残業お疲れさん」などと会話をして、本題の責任者がいるかと聞いたところ、案の定いませんでした。
やっぱりか…と電話を切ろうとしたとき「ちょっと待ってください」と止められ、電話を置いて走っていくスタッフ…
保留にする間もなく走って行ったので遠くでスタッフが叫んでいるのが聞こえる。
「Oさーん!、Oさーん!」と私の名前を呼んでいる。
電話口で???となっていたところに戻ってきて「おかしいなあ~」と。
どうしたのかを聞いてみると、返ってきた言葉が「今、ドアのところでOさんが覗いていたので、探しに行ったらいなかったんです」と…
誰かの見間違いじゃないかと聞いてみたところ、スタッフが答えた格好は、その日の私と同じだった。
その日は、営業所へ行ってもないし、そのスタッフとも会ってない。
そもそも、Oと話しているのに営業所にOがいるはずがない。
ちょっといたずら心が湧いたので「んじゃぁ、私は誰?」と聞いてみたら
「Oさんいつの間に、そっちへ行ったんですか?」と…(笑)
どうやらOからの電話だと気づかずに話をしていたところ、ドアからOが覗いたため、本社からの電話だと伝えるために探したと…
その日は残業を早々に切り上げて帰りました(笑)
ちなみに本社と営業所は車で20分くらいかかる距離です。
書類作成をしていて営業所の責任者に確認したいことがあり「いないだろうな」と思いつつ電話を掛けました。
数回の呼び出し音のあと、同じように残業をしていたスタッフが電話に出ました。
私は、そのスタッフを知っていたこともあり、向こうもOだと気付いていると思いつつ「遅くまで残業お疲れさん」などと会話をして、本題の責任者がいるかと聞いたところ、案の定いませんでした。
やっぱりか…と電話を切ろうとしたとき「ちょっと待ってください」と止められ、電話を置いて走っていくスタッフ…
保留にする間もなく走って行ったので遠くでスタッフが叫んでいるのが聞こえる。
「Oさーん!、Oさーん!」と私の名前を呼んでいる。
電話口で???となっていたところに戻ってきて「おかしいなあ~」と。
どうしたのかを聞いてみると、返ってきた言葉が「今、ドアのところでOさんが覗いていたので、探しに行ったらいなかったんです」と…
誰かの見間違いじゃないかと聞いてみたところ、スタッフが答えた格好は、その日の私と同じだった。
その日は、営業所へ行ってもないし、そのスタッフとも会ってない。
そもそも、Oと話しているのに営業所にOがいるはずがない。
ちょっといたずら心が湧いたので「んじゃぁ、私は誰?」と聞いてみたら
「Oさんいつの間に、そっちへ行ったんですか?」と…(笑)
どうやらOからの電話だと気づかずに話をしていたところ、ドアからOが覗いたため、本社からの電話だと伝えるために探したと…
その日は残業を早々に切り上げて帰りました(笑)
ちなみに本社と営業所は車で20分くらいかかる距離です。
怖い名無しさん、投稿ありがとうございました
【百物語 第八十三話】蟻の街
この話は、俺が20年位前に体験した実話だ。
俺は当時、浅草で人力車を引いていた。
しかし、元々ここら辺が地元ではなかったので、浅草の地理には疎かった。
それでも親方からは、仕事をしながら覚えていけば良いと言われ、乗りと勢いで人力車を走らせた。
今思うと、かなり適当な車夫だったと思う。
そんな俺が車夫を始めて一週間程経った頃の事だ。
その日、50歳位の酔ったオッサンを乗せた。
オッサンは元々は浅草が地元だったそうだ。
今は遠くに住んでおり、浅草は随分久しぶりだと話していた。
俺はオッサンの指示に従いながら浅草近辺を人力車で走った。
オッサンは浅草を随分と懐かしがっていたが、同時に昔と比べ様変わりしてしまった浅草を寂しく思っているようでもあった。
俺の記憶違いで無ければ花川戸の辺りを走っていた時だったと思う。
突然霧が出てきたんだ。
季節は6月の下旬でその日は雨上がりだった。
霧は進めば進む程に濃霧となっていった。
それは有り得ない程の濃霧となった。
1メートル先も見通しが利かない程の濃霧だ。
浅草でこのよう事は異常だ。
異常なのはそれだけでは無かった。
空の景色がもっと異常だった。
空が赤と紫の混じった異様な色となっていった。
しかも赤と紫が混じり合いながら巨大な渦を巻き始めていた。
まるで天変地異が起こったかと思わせる景観であった。
俺とオッサンはビビった。
それでも人力車を走らせた。
すると、段々と霧が薄くなっていった。
前方もだいぶ見通しが利くようになって俺は驚いた。
さっきまでマンションなど沢山あったのに、突然、平屋の家ばかりが建ち並ぶ景観となっていた。
しかも、先程までは舗装された道路を走っていたのに、今走っているのは、土埃が舞う未舗装の道となっていた。
更に見渡すと、建ち並ぶ平屋が有り得ない程ボロいのに気付いた。
全て木造の家。
まるで、明日のジョーに出て来るドヤ街みたいな感じ。
しかも、あれ程沢山目に付いた自動販売機がひとつも見当たらない。
もう少し先に進むと、見た事の無い変な車が路肩に停まっていた。
後で調べて解ったが、あの車はフジキャビンと言う名の車だった。
人力車に乗ってるオッサンに目を向けると驚愕していた。
「信じられん、こんな馬鹿な」と呟いていた。
俺は構わず先に進んだ。
すると、少し広い場所に出た。
何人か人がいたが、皆ホームレスのように汚なかった。
そいつらも俺達を見て驚いていた。
しかも、段々と人が集まり俺達の周りに群がって来た。
突然オッサンが「お前、少しここで待っててくれ。すぐ戻るから。」
そう言って慌ててどこかへ行ってしまった。
仕方が無いので、俺はタバコを吸いながら待つ事にした。
それにしても、この周りを取り囲み集まって来た連中はとても異様であった。
皆、異様に汚なく、何故か俺に異常なまでの警戒心を抱いているようで、遠巻きに取り囲むだけで近づいて来なかった。
俺はヤバイ所に来てしまったと悔やんだ。
暫くすると1人の男が、意を決したかのように俺に話しかけて来た。
「おっ お前は何しに来たんだ?」
俺はそいつに答えた。
「見ての通り、俺は人力車に客を乗せて言われるままに来たんだよ。」
そいつは「それに俺も乗っけてくれ」と言って来た。
何か異様な雰囲気だったし、少しなら良いかと思って乗っけた。
そしたら、そいつのハシャギ方が半端じゃなかった。
それを見て、周りの連中も警戒心を解き一気に群がって来た。
まるで芸能人にファンが群がって来るよう感じ。
俺も乗せろ、俺も乗せろと大騒ぎ。
正直、怖くなった。
何で人力車がそこまで珍しいのか解らんかった。
そいつらのテンションが半端じゃなく、人力車が壊されそうな勢いだった。
「これはヤバイ」
俺はそいつらを追い払う事にした。
そしたら最初に話しかけて来た奴が
「何だお前、どけっ」
そう叫んで俺に襲いきって来た。
これはやるしかない。
俺は格闘技をかじっていたので、カウンターでボディに思いっきり蹴りをぶちこんだ。
そいつは敢えなくダウン。
ブチキレた俺は「ぶち殺してやるっ」と叫びながら、倒れたそいつを泣き叫ぶのも構わず蹴りまくった。
周りの群衆は、ブチキレた俺にビビって皆逃げて行った。
そしたら突然背後から「乱暴は止めなさいっ」
若い女性の大きな声がした。
後ろを振り返ると、魔法使いサリーちゃんに登場する、よし子ちゃんを思わせる、おさげヘアーの若い女性が立っていた。
「あなた、殺してやるなんて、何て恐ろしい事を言うのですか」
俺はその娘に言った。
「あんたは見ていなかったけど、こいつが突然俺に襲いかかって来たんだ」
その娘は
「だからと言って、泣き叫んでいる人をあんなにまで痛めつけるなんて酷すぎますっ」
そして、その娘は悲しみに満ちた表情で俺に言った。
「ここに住んでいる人達は本当に可哀想な人達なのよ」
俺は言った。
「大体ここは一体何なんだ?こんなスラム街、平成の時代にまだあるのか?」
「まるで何十年も昔の昭和の街並みじゃないか。」
そしたらその娘が、
「平成?何ですかそれは?」
「今は昭和ですよ。あなたは何を言ってるの?」
俺は衝撃を受けた。
「お前こそ一体何を言ってるんだ。」
「今は平成だろう、頭がおかしいのか?」
俺の言葉を受けその娘は、
「頭がおかしい?あなたはさっきから何を言ってるのですか?」
「それはあなたでしょう。」
俺は混乱した。
もう訳が解らん。
そしたらオッサンが戻って来た。
オッサンが「この騒ぎは一体何なんだ?」
と尋ねてきたので、今までの経緯を一通り話した。
その後、オッサンがお下げヘアのよし子ちゃんに目を向けた。
オッサンの表情が見る見る変わっていった。
驚愕に満ちた表情だった。
そしてオッサンはその娘に、
「こいつが皆さんに迷惑をかけて大変申し訳ありません」
「どうか赦してやって下さい。」
俺は腑に落ちなかったのでオッサンに言った。
「何で俺が悪いんだ?ふざけんなよ。」
オッサンは小声で
「頼むからあの娘に謝ってくれないか。」
「あの娘は本当に優しい娘なんだよ。頼む、この場は謝ってくれ。」
オッサンが目に涙を溜めて頼んで来るので仕方無く謝った。
そしたら、さっき蹴飛ばした奴と周りで遠巻きに見てた連中が、
「そんな奴は赦すな。みんなでやっちまえ」と騒ぎ始めた。
これはマズイ事になったと思って見てたら、お下げのよし子ちゃんが一喝。
「お止めなさいっ」
「どうして仲良く出来ないのですか?」
「お願いですからみんなで仲直りして下さい。」
そしたら皆が驚く程素直に従った。
俺は内心思った。
やるな、よし子ちゃん。
よし子ちゃんは、ここら辺の連中からリスペクトされているようであった。
よし子ちゃんは俺を見て言った。
「どうかお願いです、あの人達を赦してあげて下さい。」
「本当は皆さん、とても良い人達なんです。」
「どうかお願いします。」
彼女は目に涙を溜めて俺にお願いして来た。
俺は「解ったよ。別に気にしてないから。」と彼女に言った。
何だか女に泣かれると妙に落ち着かない。
タバコも切らして口が寂しくなったので、ポケットに入っていたクロレッツガムを取り出して口に入れた。
そんな俺を珍しそうに見つめる少年がいた。
小学校3年か4年位の丸坊主の男の子だ。
俺は「何だ坊主、何見てんだ?ガム食べるか?」
そう言ってガムを差しだした。
少年はとても嬉しそうに頷いた。
その子は俺のあげたクロレッツガムを口に入れて噛み始めた。
その途端、もの凄くビックリした顔をして両手で口を押さえた。
「坊主、どうかしたのか?」
そしたらその子が、
「口の中が凄く変な感じする。」
「口がヒリヒリする」
そう言って、ガムを自分の手の平に吐き出した。
俺は「お前、クロレッツ食べた事無いのか?」
少年は無言で頷いた。
俺は珍しいなと思い、少し驚いて言った。
「お前、ミント系のガムは食べた事無いのか。」
「もう少し我慢して噛んでみろ。甘くなって食べやすくなるから。」
少年は頷いて、手の平に吐き出したクロレッツガムをもう一度口に入れた。
噛んでくうちに、段々とスーパーミントの刺激が薄れ甘味が増して来たのか、美味しい美味しいと一生懸命噛んでいた。
オッサンの方を見ると、目を剥いて少年を仰視していた。
オッサンの様子が余りにも変なので、
「オッサン、この子知ってるの?」と訊いてみた。
するとオッサンは、ため息混じりに深く頷いた。
そして俺に有り得ない事を言った。
「あの子どもは俺だよ」
「ハァ? それ、どういう意味?」
俺はオッサンの言った事が全く理解出来なかった。
オッサンは、
「信じられんと思うが、あの子は幼い頃の俺なんだよ。」
俺はもう帰りたいと思った。
どいつもこいつも頭がおかしい。
皆イカれてる。
それにオッサンを乗せてから時間も大分経っているはずだと思い、腕時計に目をやると3時5分で停まっていた。
「何だよ、電池切れかよ」
オッサンに
「今、何時か分かる?」
するとオッサンは
「ありゃ、3時過ぎで停まってるよ」
オッサンの時計を見ると3時5分で停まっていた。
何だか偶然とは思えない。
とにかく、もう戻らなくてはと思いオッサンに、
「もう2時間位は経っているはずだから戻るよ」
オッサンはとても寂しそうな表情で、
「そうかぁ、少し待っててくれないか。」
そう言って少年の方へ歩み寄り、
「坊主、いいかぁ、お父さん、お母さんを大切にするんだよ。」
オッサンは涙目で少年の両肩を掴み、呟やくようにゆっくりと言った。
少年はキョトンとしながら、黙って頷いた。
俺はオッサンに、
「早く乗ってくれ、もう行くよ。」
オッサンを乗せてから、お下げヘアのよし子ちゃんに、
「今日はお騒がせして悪かったな。」
「また、遊びに来るよ。」
俺は別れの挨拶を済ませると、人力車を元来た道へと走らせた。
少し走らせると、また霧が出て来た。
さっきと同じように段々と濃霧になっていった。
空を見ると赤と紫の大きな渦を巻いていた。
構わず進むと段々と霧が薄くなっていき、見通しの利く場所まで出ると、いつの間にか舗装された道路を走っていた。
空もいつも通りの青空になっていた。
街並みも、マンションや店が建ち並ぶいつもの雰囲気。
自動販売機も当たり前にある。
何だかホッとした。
何気に腕時計を見ると、秒針が動き始めていた。
オッサンの腕時計も動き始めた。
俺はオッサンに向かって、
「今時あんな汚い街並みが在るなんて信じられ無いよ。」
「まるで、明日のジョーや巨人の星に出て来るバラック小屋の街だよ。」
するとオッサンは語気を強めて言った。
「あそこに住んでいた人達はな、必死になって生きていたんだよ。」
「馬鹿にしたような言い方をするんじゃない。」
オッサンは目に涙浮かべながら、怒りと悲しみに満ちた表情で俺を見据えていた。
さすがに俺もマズイ事を言ったと思い謝った。
それと、オッサンに気になる事があったので質問した。
「あの、お下げヘアの娘はオッサンの知り合い?」
するとオッサンは、
「俺が小さい頃、よく可愛がって貰ったんだよ。」
俺は、
「ハァ??? 意味が解らん? それ、どういう事?」
オッサンは、
「きっと、これ以上話しても信じて貰えんよ。」
「だから、もう話さない。」
俺も訳が解らんから、よし子ちゃんの事はそれ以上訊かなかった。
俺は、もう一つ気になる事があった。
「オッサンそう言えば、さっき何処に行ってたの?」
オッサンは、
「親父とお袋を見て来たんだよ。懐かしかったなぁ。」
「本当は話もしたかったんだけどなぁ。」
俺は、
「ご両親と話さなかったの? 何で?」
オッサンは、
「俺が息子だなんて言っても、信じてなんか貰えんよ。」
俺はオッサンの言う事が全く理解出来なかったけど、
「よく解らんけどさ、親御さんが浅草に居るんなら、また遊びに来ればいいよ。」
するとオッサンは、
「親父もお袋も随分前に死んじゃったよ。」
俺はビックリして言った。
「何言ってんだよ。さっき見て来たって言ったじゃん。」
オッサンは満足そうに言った。
「信じろと言う方が無理だよなぁ。」
「それにしても、夢のような出来事だったなぁ。」
オッサンは続けて、ゆっくりと話した。
「俺な、大きな病気してな、物凄く落ち込んでたんだ。」
「やけになってな、毎日酒飲んでた。」
「けどな、今は心がな、喜びで満たされてるんだよ。」
「もう、いつ死んでもな、悔いはないよ。」
そしてオッサンは俺に、
「さっきお前が食べてたガム、あれ、一つくれないか?」
俺はオッサンに、クロレッツガムを一つあげた。
オッサンは嬉しそうに口に入れ、両手で口を押さえながら、
「これだっ この味だよ、懐かしいなぁ。」
「あの時、このガムをくれたのお前だったんだなぁ。」
「まさか、あの時、俺も居たなんて思わなかったなぁ。」
オッサンは、またしても訳の解らん事を言っていたが、気にするのを止め、雷門へ向けて走った。
雷門に到着したのでオッサンを降ろした。
俺はオッサンに、
「オッサン、また機会があったら浅草へ遊びに来なよ。」
「俺はいつでも雷門の前に居るからさ。」
しかしオッサンは、
「俺はもう、ここには来れ無いと思う。」
「今日は本当に、本当にありがとうな。」
そう言って涙目で握手をして来た。
そしてオッサンは、
「身体は大切にするんだぞ。いつまでも元気でな。」
そう言って帰って行った。
オッサンとはその後、一度も会って無い。
俺は、さっきまで停まっていた腕時計が気になった。
正しい時間に針を合わせたいと思ったので、人力車の同僚に、
「さっき腕時計が停まっちゃってさ、正しい時間に合わせたいんだ。」
「今、何時かな?」
そしたら、その同僚は、
「今は3:30だよ。」
俺の時計を見ると3:30になっていた。
「あれっ!どうなってるんだ?」
間違い無く2時間以上は走っていたのに、時間が余り進んでいなかった。
俺は疲れているんだな。
そう思って、その日は早めに家に帰って寝た。
後日、俺はもう一度、あのバラック小屋の街へ行こうと思った。
何となく、お下げヘアのよし子ちゃんが気になったからだ。
この間、騒がせてしまったお詫びに、飯でも連れて行ってあげようと思った。
それに、彼女の本名も聴いてもなかったし、あの街の事も含めて、色々と聴いて見たかったんだ。
しかし、いくら探しても、あの街は見つからなかった。
それから10年以上の月日が経った頃だ。
俺は人力車の仕事を、随分前に辞めていた。
その頃は営業の仕事に就いていた。
当時は読書にはまっており、暇さえあば図書館に行って、ジャンルを問わず、ノンフィクションの本を読み漁っていた
その日も俺はノンフィクションの本棚を手当たり次第漁っていた。
そして、何気に取った本を数ページめくった。
めくったページに写真が写っていたので、何の写真か見てみた。
俺は今までの人生の中でも、かって無い程の衝撃を受けた。
その写真に写って居るのは何と、あの、お下げヘアのよし子ちゃんだった。
絶対に間違いない。
これは一体どういう事だ?
本の題名は、俺の記憶違いで無ければ、
『蟻の街のマリア 北原怜子の生涯』
よし子ちゃんの本名は北原怜子と言う名前だった。
驚いた事に、彼女は1958年に若くして他界していたのだ。
俺は混乱した。
どうなってるんだ?
彼女は、俺が生まれる前に他界していたからだ。
彼女は有名な、キリスト教のクリスチャンだったそうだ。
彼女は1950年代の浅草にあった「蟻の街」と呼ばれた貧民街で、イエス・キリストの愛を伝える為、自ら貧民街に住み、そこに住む貧しい人達の為に、自ら奉仕をしていたそうだ。
全ての謎が解けた。
信じ難い事だが、あの時俺はオッサンを乗せて、1950年代の浅草へと時空を越えて、人力車を走らせたんだ。
あれから色々考えた。
何故、俺とオッサンは人力車で時空を越えたのか。
ここからは、あくまで俺の仮説だ。
オッサンに原因があったのではないか?
オッサンは大きな病気をして、やけになり、毎日酒を飲んでたと話していた。
つまりオッサンは、不治の病にかかり、自分の死期が近いと感じていた。
オッサンは死ぬ前に、死んだ両親に会いたいと、毎日強く想っていたのではないか。
そんなオッサンの強い想いが浅草でスパークした。
そして、信じられない奇跡が起こった。
俺をも巻き込み人力車ごと、時空を越えて懐かしい両親のもとへと行ってしまった。
ここまで書いた事は、正真正銘の事実だ。
誰にも話した事は無いけどね。
俺は、オッサンが今頃天国で、
自分の両親や北原さん、そして、
キリストと一緒に幸せに過ごしている事を、
切に願ってるんだ。
その日、50歳位の酔ったオッサンを乗せた。
オッサンは元々は浅草が地元だったそうだ。
今は遠くに住んでおり、浅草は随分久しぶりだと話していた。
俺はオッサンの指示に従いながら浅草近辺を人力車で走った。
オッサンは浅草を随分と懐かしがっていたが、同時に昔と比べ様変わりしてしまった浅草を寂しく思っているようでもあった。
俺の記憶違いで無ければ花川戸の辺りを走っていた時だったと思う。
突然霧が出てきたんだ。
季節は6月の下旬でその日は雨上がりだった。
霧は進めば進む程に濃霧となっていった。
それは有り得ない程の濃霧となった。
1メートル先も見通しが利かない程の濃霧だ。
浅草でこのよう事は異常だ。
異常なのはそれだけでは無かった。
空の景色がもっと異常だった。
空が赤と紫の混じった異様な色となっていった。
しかも赤と紫が混じり合いながら巨大な渦を巻き始めていた。
まるで天変地異が起こったかと思わせる景観であった。
俺とオッサンはビビった。
それでも人力車を走らせた。
すると、段々と霧が薄くなっていった。
前方もだいぶ見通しが利くようになって俺は驚いた。
さっきまでマンションなど沢山あったのに、突然、平屋の家ばかりが建ち並ぶ景観となっていた。
しかも、先程までは舗装された道路を走っていたのに、今走っているのは、土埃が舞う未舗装の道となっていた。
更に見渡すと、建ち並ぶ平屋が有り得ない程ボロいのに気付いた。
全て木造の家。
まるで、明日のジョーに出て来るドヤ街みたいな感じ。
しかも、あれ程沢山目に付いた自動販売機がひとつも見当たらない。
もう少し先に進むと、見た事の無い変な車が路肩に停まっていた。
後で調べて解ったが、あの車はフジキャビンと言う名の車だった。
人力車に乗ってるオッサンに目を向けると驚愕していた。
「信じられん、こんな馬鹿な」と呟いていた。
俺は構わず先に進んだ。
すると、少し広い場所に出た。
何人か人がいたが、皆ホームレスのように汚なかった。
そいつらも俺達を見て驚いていた。
しかも、段々と人が集まり俺達の周りに群がって来た。
突然オッサンが「お前、少しここで待っててくれ。すぐ戻るから。」
そう言って慌ててどこかへ行ってしまった。
仕方が無いので、俺はタバコを吸いながら待つ事にした。
それにしても、この周りを取り囲み集まって来た連中はとても異様であった。
皆、異様に汚なく、何故か俺に異常なまでの警戒心を抱いているようで、遠巻きに取り囲むだけで近づいて来なかった。
俺はヤバイ所に来てしまったと悔やんだ。
暫くすると1人の男が、意を決したかのように俺に話しかけて来た。
「おっ お前は何しに来たんだ?」
俺はそいつに答えた。
「見ての通り、俺は人力車に客を乗せて言われるままに来たんだよ。」
そいつは「それに俺も乗っけてくれ」と言って来た。
何か異様な雰囲気だったし、少しなら良いかと思って乗っけた。
そしたら、そいつのハシャギ方が半端じゃなかった。
それを見て、周りの連中も警戒心を解き一気に群がって来た。
まるで芸能人にファンが群がって来るよう感じ。
俺も乗せろ、俺も乗せろと大騒ぎ。
正直、怖くなった。
何で人力車がそこまで珍しいのか解らんかった。
そいつらのテンションが半端じゃなく、人力車が壊されそうな勢いだった。
「これはヤバイ」
俺はそいつらを追い払う事にした。
そしたら最初に話しかけて来た奴が
「何だお前、どけっ」
そう叫んで俺に襲いきって来た。
これはやるしかない。
俺は格闘技をかじっていたので、カウンターでボディに思いっきり蹴りをぶちこんだ。
そいつは敢えなくダウン。
ブチキレた俺は「ぶち殺してやるっ」と叫びながら、倒れたそいつを泣き叫ぶのも構わず蹴りまくった。
周りの群衆は、ブチキレた俺にビビって皆逃げて行った。
そしたら突然背後から「乱暴は止めなさいっ」
若い女性の大きな声がした。
後ろを振り返ると、魔法使いサリーちゃんに登場する、よし子ちゃんを思わせる、おさげヘアーの若い女性が立っていた。
「あなた、殺してやるなんて、何て恐ろしい事を言うのですか」
俺はその娘に言った。
「あんたは見ていなかったけど、こいつが突然俺に襲いかかって来たんだ」
その娘は
「だからと言って、泣き叫んでいる人をあんなにまで痛めつけるなんて酷すぎますっ」
そして、その娘は悲しみに満ちた表情で俺に言った。
「ここに住んでいる人達は本当に可哀想な人達なのよ」
俺は言った。
「大体ここは一体何なんだ?こんなスラム街、平成の時代にまだあるのか?」
「まるで何十年も昔の昭和の街並みじゃないか。」
そしたらその娘が、
「平成?何ですかそれは?」
「今は昭和ですよ。あなたは何を言ってるの?」
俺は衝撃を受けた。
「お前こそ一体何を言ってるんだ。」
「今は平成だろう、頭がおかしいのか?」
俺の言葉を受けその娘は、
「頭がおかしい?あなたはさっきから何を言ってるのですか?」
「それはあなたでしょう。」
俺は混乱した。
もう訳が解らん。
そしたらオッサンが戻って来た。
オッサンが「この騒ぎは一体何なんだ?」
と尋ねてきたので、今までの経緯を一通り話した。
その後、オッサンがお下げヘアのよし子ちゃんに目を向けた。
オッサンの表情が見る見る変わっていった。
驚愕に満ちた表情だった。
そしてオッサンはその娘に、
「こいつが皆さんに迷惑をかけて大変申し訳ありません」
「どうか赦してやって下さい。」
俺は腑に落ちなかったのでオッサンに言った。
「何で俺が悪いんだ?ふざけんなよ。」
オッサンは小声で
「頼むからあの娘に謝ってくれないか。」
「あの娘は本当に優しい娘なんだよ。頼む、この場は謝ってくれ。」
オッサンが目に涙を溜めて頼んで来るので仕方無く謝った。
そしたら、さっき蹴飛ばした奴と周りで遠巻きに見てた連中が、
「そんな奴は赦すな。みんなでやっちまえ」と騒ぎ始めた。
これはマズイ事になったと思って見てたら、お下げのよし子ちゃんが一喝。
「お止めなさいっ」
「どうして仲良く出来ないのですか?」
「お願いですからみんなで仲直りして下さい。」
そしたら皆が驚く程素直に従った。
俺は内心思った。
やるな、よし子ちゃん。
よし子ちゃんは、ここら辺の連中からリスペクトされているようであった。
よし子ちゃんは俺を見て言った。
「どうかお願いです、あの人達を赦してあげて下さい。」
「本当は皆さん、とても良い人達なんです。」
「どうかお願いします。」
彼女は目に涙を溜めて俺にお願いして来た。
俺は「解ったよ。別に気にしてないから。」と彼女に言った。
何だか女に泣かれると妙に落ち着かない。
タバコも切らして口が寂しくなったので、ポケットに入っていたクロレッツガムを取り出して口に入れた。
そんな俺を珍しそうに見つめる少年がいた。
小学校3年か4年位の丸坊主の男の子だ。
俺は「何だ坊主、何見てんだ?ガム食べるか?」
そう言ってガムを差しだした。
少年はとても嬉しそうに頷いた。
その子は俺のあげたクロレッツガムを口に入れて噛み始めた。
その途端、もの凄くビックリした顔をして両手で口を押さえた。
「坊主、どうかしたのか?」
そしたらその子が、
「口の中が凄く変な感じする。」
「口がヒリヒリする」
そう言って、ガムを自分の手の平に吐き出した。
俺は「お前、クロレッツ食べた事無いのか?」
少年は無言で頷いた。
俺は珍しいなと思い、少し驚いて言った。
「お前、ミント系のガムは食べた事無いのか。」
「もう少し我慢して噛んでみろ。甘くなって食べやすくなるから。」
少年は頷いて、手の平に吐き出したクロレッツガムをもう一度口に入れた。
噛んでくうちに、段々とスーパーミントの刺激が薄れ甘味が増して来たのか、美味しい美味しいと一生懸命噛んでいた。
オッサンの方を見ると、目を剥いて少年を仰視していた。
オッサンの様子が余りにも変なので、
「オッサン、この子知ってるの?」と訊いてみた。
するとオッサンは、ため息混じりに深く頷いた。
そして俺に有り得ない事を言った。
「あの子どもは俺だよ」
「ハァ? それ、どういう意味?」
俺はオッサンの言った事が全く理解出来なかった。
オッサンは、
「信じられんと思うが、あの子は幼い頃の俺なんだよ。」
俺はもう帰りたいと思った。
どいつもこいつも頭がおかしい。
皆イカれてる。
それにオッサンを乗せてから時間も大分経っているはずだと思い、腕時計に目をやると3時5分で停まっていた。
「何だよ、電池切れかよ」
オッサンに
「今、何時か分かる?」
するとオッサンは
「ありゃ、3時過ぎで停まってるよ」
オッサンの時計を見ると3時5分で停まっていた。
何だか偶然とは思えない。
とにかく、もう戻らなくてはと思いオッサンに、
「もう2時間位は経っているはずだから戻るよ」
オッサンはとても寂しそうな表情で、
「そうかぁ、少し待っててくれないか。」
そう言って少年の方へ歩み寄り、
「坊主、いいかぁ、お父さん、お母さんを大切にするんだよ。」
オッサンは涙目で少年の両肩を掴み、呟やくようにゆっくりと言った。
少年はキョトンとしながら、黙って頷いた。
俺はオッサンに、
「早く乗ってくれ、もう行くよ。」
オッサンを乗せてから、お下げヘアのよし子ちゃんに、
「今日はお騒がせして悪かったな。」
「また、遊びに来るよ。」
俺は別れの挨拶を済ませると、人力車を元来た道へと走らせた。
少し走らせると、また霧が出て来た。
さっきと同じように段々と濃霧になっていった。
空を見ると赤と紫の大きな渦を巻いていた。
構わず進むと段々と霧が薄くなっていき、見通しの利く場所まで出ると、いつの間にか舗装された道路を走っていた。
空もいつも通りの青空になっていた。
街並みも、マンションや店が建ち並ぶいつもの雰囲気。
自動販売機も当たり前にある。
何だかホッとした。
何気に腕時計を見ると、秒針が動き始めていた。
オッサンの腕時計も動き始めた。
俺はオッサンに向かって、
「今時あんな汚い街並みが在るなんて信じられ無いよ。」
「まるで、明日のジョーや巨人の星に出て来るバラック小屋の街だよ。」
するとオッサンは語気を強めて言った。
「あそこに住んでいた人達はな、必死になって生きていたんだよ。」
「馬鹿にしたような言い方をするんじゃない。」
オッサンは目に涙浮かべながら、怒りと悲しみに満ちた表情で俺を見据えていた。
さすがに俺もマズイ事を言ったと思い謝った。
それと、オッサンに気になる事があったので質問した。
「あの、お下げヘアの娘はオッサンの知り合い?」
するとオッサンは、
「俺が小さい頃、よく可愛がって貰ったんだよ。」
俺は、
「ハァ??? 意味が解らん? それ、どういう事?」
オッサンは、
「きっと、これ以上話しても信じて貰えんよ。」
「だから、もう話さない。」
俺も訳が解らんから、よし子ちゃんの事はそれ以上訊かなかった。
俺は、もう一つ気になる事があった。
「オッサンそう言えば、さっき何処に行ってたの?」
オッサンは、
「親父とお袋を見て来たんだよ。懐かしかったなぁ。」
「本当は話もしたかったんだけどなぁ。」
俺は、
「ご両親と話さなかったの? 何で?」
オッサンは、
「俺が息子だなんて言っても、信じてなんか貰えんよ。」
俺はオッサンの言う事が全く理解出来なかったけど、
「よく解らんけどさ、親御さんが浅草に居るんなら、また遊びに来ればいいよ。」
するとオッサンは、
「親父もお袋も随分前に死んじゃったよ。」
俺はビックリして言った。
「何言ってんだよ。さっき見て来たって言ったじゃん。」
オッサンは満足そうに言った。
「信じろと言う方が無理だよなぁ。」
「それにしても、夢のような出来事だったなぁ。」
オッサンは続けて、ゆっくりと話した。
「俺な、大きな病気してな、物凄く落ち込んでたんだ。」
「やけになってな、毎日酒飲んでた。」
「けどな、今は心がな、喜びで満たされてるんだよ。」
「もう、いつ死んでもな、悔いはないよ。」
そしてオッサンは俺に、
「さっきお前が食べてたガム、あれ、一つくれないか?」
俺はオッサンに、クロレッツガムを一つあげた。
オッサンは嬉しそうに口に入れ、両手で口を押さえながら、
「これだっ この味だよ、懐かしいなぁ。」
「あの時、このガムをくれたのお前だったんだなぁ。」
「まさか、あの時、俺も居たなんて思わなかったなぁ。」
オッサンは、またしても訳の解らん事を言っていたが、気にするのを止め、雷門へ向けて走った。
雷門に到着したのでオッサンを降ろした。
俺はオッサンに、
「オッサン、また機会があったら浅草へ遊びに来なよ。」
「俺はいつでも雷門の前に居るからさ。」
しかしオッサンは、
「俺はもう、ここには来れ無いと思う。」
「今日は本当に、本当にありがとうな。」
そう言って涙目で握手をして来た。
そしてオッサンは、
「身体は大切にするんだぞ。いつまでも元気でな。」
そう言って帰って行った。
オッサンとはその後、一度も会って無い。
俺は、さっきまで停まっていた腕時計が気になった。
正しい時間に針を合わせたいと思ったので、人力車の同僚に、
「さっき腕時計が停まっちゃってさ、正しい時間に合わせたいんだ。」
「今、何時かな?」
そしたら、その同僚は、
「今は3:30だよ。」
俺の時計を見ると3:30になっていた。
「あれっ!どうなってるんだ?」
間違い無く2時間以上は走っていたのに、時間が余り進んでいなかった。
俺は疲れているんだな。
そう思って、その日は早めに家に帰って寝た。
後日、俺はもう一度、あのバラック小屋の街へ行こうと思った。
何となく、お下げヘアのよし子ちゃんが気になったからだ。
この間、騒がせてしまったお詫びに、飯でも連れて行ってあげようと思った。
それに、彼女の本名も聴いてもなかったし、あの街の事も含めて、色々と聴いて見たかったんだ。
しかし、いくら探しても、あの街は見つからなかった。
それから10年以上の月日が経った頃だ。
俺は人力車の仕事を、随分前に辞めていた。
その頃は営業の仕事に就いていた。
当時は読書にはまっており、暇さえあば図書館に行って、ジャンルを問わず、ノンフィクションの本を読み漁っていた
その日も俺はノンフィクションの本棚を手当たり次第漁っていた。
そして、何気に取った本を数ページめくった。
めくったページに写真が写っていたので、何の写真か見てみた。
俺は今までの人生の中でも、かって無い程の衝撃を受けた。
その写真に写って居るのは何と、あの、お下げヘアのよし子ちゃんだった。
絶対に間違いない。
これは一体どういう事だ?
本の題名は、俺の記憶違いで無ければ、
『蟻の街のマリア 北原怜子の生涯』
よし子ちゃんの本名は北原怜子と言う名前だった。
驚いた事に、彼女は1958年に若くして他界していたのだ。
俺は混乱した。
どうなってるんだ?
彼女は、俺が生まれる前に他界していたからだ。
彼女は有名な、キリスト教のクリスチャンだったそうだ。
彼女は1950年代の浅草にあった「蟻の街」と呼ばれた貧民街で、イエス・キリストの愛を伝える為、自ら貧民街に住み、そこに住む貧しい人達の為に、自ら奉仕をしていたそうだ。
全ての謎が解けた。
信じ難い事だが、あの時俺はオッサンを乗せて、1950年代の浅草へと時空を越えて、人力車を走らせたんだ。
あれから色々考えた。
何故、俺とオッサンは人力車で時空を越えたのか。
ここからは、あくまで俺の仮説だ。
オッサンに原因があったのではないか?
オッサンは大きな病気をして、やけになり、毎日酒を飲んでたと話していた。
つまりオッサンは、不治の病にかかり、自分の死期が近いと感じていた。
オッサンは死ぬ前に、死んだ両親に会いたいと、毎日強く想っていたのではないか。
そんなオッサンの強い想いが浅草でスパークした。
そして、信じられない奇跡が起こった。
俺をも巻き込み人力車ごと、時空を越えて懐かしい両親のもとへと行ってしまった。
ここまで書いた事は、正真正銘の事実だ。
誰にも話した事は無いけどね。
俺は、オッサンが今頃天国で、
自分の両親や北原さん、そして、
キリストと一緒に幸せに過ごしている事を、
切に願ってるんだ。
中年Hさん、投稿ありがとうございました
【百物語 第八十二話】悪運
私の家系は洪水を鎮めるために、進んで人身御供をするくらい信仰深い家だったらしい。しかも、それをした子がまだ3歳だったとか…。この時点で嘘くさいし、その結末も竜神様のご加護で悪運が強いとかありきたりな話。話してくれたおじいちゃんも家族もだーーーーれも信じてなかった。
すっかり記憶から消えて私が大人になったある日。
私が新婚旅行の代金を支払いに行く日の朝のことだった。
準備をしてリビングのドアに手を掛けた瞬間、まずコンセントの抜かれたテレビがついた。今度は、同じくコンセントが抜かれてしまったはずのドライヤーの音が聞こえてきた。
その怪奇現象よりも怖かったのは、空間そのものが臭い!!生臭い!!!
息をするたびに生臭い魚の汁を飲んでいるみたいだった。
それからジェットコースターの時みたいにお腹がフワフワして、身体に力が入らない。その状態でドア越しには生き物の気配がする。寝室の窓から脱出して自分の車に飛び乗るも、車検をしたばかりの車が動かない…。
すべてにおいてこの21世紀に、あり得ない事態が何よりも怖かった。
しばらくして、私の前をある夫婦がのった車が通り過ぎると、あっさり車が動いた。
車に置いておいた予備の靴を履いて代理店に向かうも、着く前に私の旅行の担当者から電話が入った。
新人の手違いで旅行の宿泊先と日時がある客とブッキング。しかもその客は手付金を支払って帰ったそうな。
予定を一カ月も早めることになり、私たちは夫婦共々、仕事先に迷惑かけるわ、クソ寒い中の温泉で風邪を引いてこじらせるわ、旅行先でお土産よりも治療費がかかって離婚寸前まで揉めた。職場でも針のむしろで、もう職場を辞めて離婚しようかと思ってた。
それから一ヶ月後、昼休みは終わったというのに職場の休憩室が騒がしい…。やがて上司に引っ張られて休憩室に行くと、テレビであの震災の映像が流れた。
自分は↑思い当たる筋があったから落ち着いてたけど、職場のみんなは真っ青。その日は私だけ早く返された。ラッキーと思いながら帰宅すると、旦那と厳しい姑が泣きながら飛びついてきた。
あの話で先祖は恩恵を受けるが、あくまでも悪運でしかないから誰かが身代わりになる。あの夫婦は帰ってこなかった。
私が新婚旅行の代金を支払いに行く日の朝のことだった。
準備をしてリビングのドアに手を掛けた瞬間、まずコンセントの抜かれたテレビがついた。今度は、同じくコンセントが抜かれてしまったはずのドライヤーの音が聞こえてきた。
その怪奇現象よりも怖かったのは、空間そのものが臭い!!生臭い!!!
息をするたびに生臭い魚の汁を飲んでいるみたいだった。
それからジェットコースターの時みたいにお腹がフワフワして、身体に力が入らない。その状態でドア越しには生き物の気配がする。寝室の窓から脱出して自分の車に飛び乗るも、車検をしたばかりの車が動かない…。
すべてにおいてこの21世紀に、あり得ない事態が何よりも怖かった。
しばらくして、私の前をある夫婦がのった車が通り過ぎると、あっさり車が動いた。
車に置いておいた予備の靴を履いて代理店に向かうも、着く前に私の旅行の担当者から電話が入った。
新人の手違いで旅行の宿泊先と日時がある客とブッキング。しかもその客は手付金を支払って帰ったそうな。
予定を一カ月も早めることになり、私たちは夫婦共々、仕事先に迷惑かけるわ、クソ寒い中の温泉で風邪を引いてこじらせるわ、旅行先でお土産よりも治療費がかかって離婚寸前まで揉めた。職場でも針のむしろで、もう職場を辞めて離婚しようかと思ってた。
それから一ヶ月後、昼休みは終わったというのに職場の休憩室が騒がしい…。やがて上司に引っ張られて休憩室に行くと、テレビであの震災の映像が流れた。
自分は↑思い当たる筋があったから落ち着いてたけど、職場のみんなは真っ青。その日は私だけ早く返された。ラッキーと思いながら帰宅すると、旦那と厳しい姑が泣きながら飛びついてきた。
あの話で先祖は恩恵を受けるが、あくまでも悪運でしかないから誰かが身代わりになる。あの夫婦は帰ってこなかった。
怖い名無しさん、投稿ありがとうございました
【百物語 第八十一話】スリッパ
学校というところは、得てして不思議なことが起こる場所でありまして。
また、得てして不思議な人が集まる場所でもあるのです。
Kの通う高校の、生徒用玄関とは別にある正面玄関。
様々な人が出入りすることから、常時客用スリッパが大きな箱の中に乱雑にはいっていた。
ある放課後、Kがその正面玄関を通ったとき。
丁寧にスリッパが一揃え、置いてあった。
K「出しっぱなしか。片付けろよなー」
Kはスリッパを重ねて、箱に入れた。
Kが再び正面玄関を通ったとき、また、スリッパが一揃え置いてあった。
K「出したらしまえよ…」
Kはぶつぶつ言いながらも再びスリッパをしまう。
部活を終え、Kが帰ろうと正面玄関の側を通った。
何の気なしに、ふと正面玄関の方を見れば、上がり口に何かが置いてある。
K「ハァ?また出しっぱかよ」
ねーよ、と言いながら通りすぎようとすれば、部活の顧問が通り掛かった。
「K、それ片付けといてやれ」
冗談じゃないと目を剥くKに構わず顧問は去る。
なんで俺が、と思いつつスリッパを仕舞った。
さて帰るか、とKはまた正面玄関の側を通る。何だかんだ言ってここは近道だったのだ。まっすぐ進めば、正面玄関が見えてくる。
Kは目を見開いた。
スリッパが、一揃え。こちらに爪先を向け、きちんと並べられている。
K「嘘だろ…」
もう、外はすっかり暗い。こんな時間に誰がくるというのか。帰るにしても、遅いにもほどがある。
ようよう、Kはそれを気味悪く感じた。
じっとスリッパを見る。
友人F「K、何してんの」
K「お…おー…。あのさぁ、さっきから片付けても片付けても、スリッパがさ、置いてあるんだよ」
F「…へー」
K「何だろうなこれ…」
F「…はいてほしいんじゃね?」
K「…は?」
F「スリッパ、誰かにはいてほしいんじゃね?」
K「…はぁ?冗談言うなよ…はいてほしいとか…」
スリッパを見る。きちんと爪先を向けて、静かに佇んでいる。
K「…だったら俺はいてやろっかな?」
ふざけ混じりに言えば、友達が冷めた声でいった。
F「やめたほうがいんじゃね」
K「なになに?祟りがあるとか?」
F「やー、だってさ?」
友達はスリッパを手にとって、重ねた。
F「いるの、足だけじゃん」
K「…は?」
F「欲しいのは足だけだからさ」
Fは箱にスリッパを投げ込み、「マック行こうぜ」とのほほんと言った。
欲しいのは足だけ?
じゃあ、それ以外は。
小さく音が鳴った。
Kが振り向く。
小さな爪先が、こちらを、
一揃い。
様々な人が出入りすることから、常時客用スリッパが大きな箱の中に乱雑にはいっていた。
ある放課後、Kがその正面玄関を通ったとき。
丁寧にスリッパが一揃え、置いてあった。
K「出しっぱなしか。片付けろよなー」
Kはスリッパを重ねて、箱に入れた。
Kが再び正面玄関を通ったとき、また、スリッパが一揃え置いてあった。
K「出したらしまえよ…」
Kはぶつぶつ言いながらも再びスリッパをしまう。
部活を終え、Kが帰ろうと正面玄関の側を通った。
何の気なしに、ふと正面玄関の方を見れば、上がり口に何かが置いてある。
K「ハァ?また出しっぱかよ」
ねーよ、と言いながら通りすぎようとすれば、部活の顧問が通り掛かった。
「K、それ片付けといてやれ」
冗談じゃないと目を剥くKに構わず顧問は去る。
なんで俺が、と思いつつスリッパを仕舞った。
さて帰るか、とKはまた正面玄関の側を通る。何だかんだ言ってここは近道だったのだ。まっすぐ進めば、正面玄関が見えてくる。
Kは目を見開いた。
スリッパが、一揃え。こちらに爪先を向け、きちんと並べられている。
K「嘘だろ…」
もう、外はすっかり暗い。こんな時間に誰がくるというのか。帰るにしても、遅いにもほどがある。
ようよう、Kはそれを気味悪く感じた。
じっとスリッパを見る。
友人F「K、何してんの」
K「お…おー…。あのさぁ、さっきから片付けても片付けても、スリッパがさ、置いてあるんだよ」
F「…へー」
K「何だろうなこれ…」
F「…はいてほしいんじゃね?」
K「…は?」
F「スリッパ、誰かにはいてほしいんじゃね?」
K「…はぁ?冗談言うなよ…はいてほしいとか…」
スリッパを見る。きちんと爪先を向けて、静かに佇んでいる。
K「…だったら俺はいてやろっかな?」
ふざけ混じりに言えば、友達が冷めた声でいった。
F「やめたほうがいんじゃね」
K「なになに?祟りがあるとか?」
F「やー、だってさ?」
友達はスリッパを手にとって、重ねた。
F「いるの、足だけじゃん」
K「…は?」
F「欲しいのは足だけだからさ」
Fは箱にスリッパを投げ込み、「マック行こうぜ」とのほほんと言った。
欲しいのは足だけ?
じゃあ、それ以外は。
小さく音が鳴った。
Kが振り向く。
小さな爪先が、こちらを、
一揃い。
理科室のミッカン酢さん、投稿ありがとうございました
【百物語 第八十話】つつかれて
大学もやっと卒業論文が終わり、バイトに明け暮れていたのだが、ある日疲れて帰ってくると何だかものすごく眠くなった。
あぁ~疲れが溜まってたのかなぁと思い、さっそくベッドでバタンキュー。
少し説明すると、俺のベッドの上は向かって右半分がCDケースやら脱ぎっぱの服やらで埋まっていて、いつも向かって左半分のスペースで寝てたわけ。
その日も勿論、左半分のスペースで寝たんだけど、うつぶせで倒れ混むように寝ると何分スペースが狭いから左手がベッドから垂れるのね。
まぁ、そんなことは気にせず普通に寝てると、誰かに手のひらをつつかれて目が覚めた。
何時かは分からないけど真っ暗だったから夜中なのは確か。
はぁ?なに?とか寝ぼけているとまた手のひらをつつかれた。勿論、つついてる本人の姿は見当たらない。
そして、あろうことか寝ぼけてるせいもあって、つついてるものを握ってみた。
指だった。
丁寧にその指をなぞってみる。指って関節の所にシワが寄ると思うんだけど、それもちゃんとある。先の方には爪らしき硬い感触もちゃんとあった。
そして、指だと分かった瞬間、一気に頭が覚醒して状況の理解に働いた。
自分の状態は右手はベッドの上。左手は肘から下がベッドから垂れている。
当たり前だがベッドの高さはせいぜい立ってる人の膝くらいなもので、垂れてる左手も床に付くかギリギリな感じ。
この状態で俺の左手は誰かの指を握っている。
まず自分の指ではない。自分で自分の指を握るのは不可能。親指なら握れなくもないが、さすがに握られている感触はあるはず。
床すれすれの俺の左手をつつけるとしたら床から指がはえてるか、ベッドの下から俺の手をつついてる奴がいるかどっちかである。
瞬時にこれはもしや幽霊!と思ったが、なんとも人間の欲求というのは強いもので、とにかく眠たかった。そして、恐怖より疲れてるのに無駄に起こされたという怒りが勝ったのである。
そして、この指どうしてやろうかと考え、その結果、折ってやることにした(笑)
つまり、手の甲側に指を思いっきり曲げてみたのだ。
…が、ここで更に頭が働いた。
もし、今、俺が寝ぼけている状態でこれが自分の指だったとしたら…
もし、親か誰かの指だったとしたら…
…折るのはさすがにまずいか。
我ながら冷静な判断をし、そっとその指を離すと左手をベッドの上に戻し、何事も無かったふりをして、また眠りについたのでした。
その日も勿論、左半分のスペースで寝たんだけど、うつぶせで倒れ混むように寝ると何分スペースが狭いから左手がベッドから垂れるのね。
まぁ、そんなことは気にせず普通に寝てると、誰かに手のひらをつつかれて目が覚めた。
何時かは分からないけど真っ暗だったから夜中なのは確か。
はぁ?なに?とか寝ぼけているとまた手のひらをつつかれた。勿論、つついてる本人の姿は見当たらない。
そして、あろうことか寝ぼけてるせいもあって、つついてるものを握ってみた。
指だった。
丁寧にその指をなぞってみる。指って関節の所にシワが寄ると思うんだけど、それもちゃんとある。先の方には爪らしき硬い感触もちゃんとあった。
そして、指だと分かった瞬間、一気に頭が覚醒して状況の理解に働いた。
自分の状態は右手はベッドの上。左手は肘から下がベッドから垂れている。
当たり前だがベッドの高さはせいぜい立ってる人の膝くらいなもので、垂れてる左手も床に付くかギリギリな感じ。
この状態で俺の左手は誰かの指を握っている。
まず自分の指ではない。自分で自分の指を握るのは不可能。親指なら握れなくもないが、さすがに握られている感触はあるはず。
床すれすれの俺の左手をつつけるとしたら床から指がはえてるか、ベッドの下から俺の手をつついてる奴がいるかどっちかである。
瞬時にこれはもしや幽霊!と思ったが、なんとも人間の欲求というのは強いもので、とにかく眠たかった。そして、恐怖より疲れてるのに無駄に起こされたという怒りが勝ったのである。
そして、この指どうしてやろうかと考え、その結果、折ってやることにした(笑)
つまり、手の甲側に指を思いっきり曲げてみたのだ。
…が、ここで更に頭が働いた。
もし、今、俺が寝ぼけている状態でこれが自分の指だったとしたら…
もし、親か誰かの指だったとしたら…
…折るのはさすがにまずいか。
我ながら冷静な判断をし、そっとその指を離すと左手をベッドの上に戻し、何事も無かったふりをして、また眠りについたのでした。
流行りのゴーストライターさん、投稿ありがとうございました
【百物語 第七十九話】お祝いの品
私の母から聞いた実話を。
母さんは28歳で同い年の父さんと結婚しました。
仲も良く、お似合いだったので友達などにお祝いの品などを貰っていたそうです。
その中に、それぞれ別の人からですが二対の陶器の女の子と男の娘の人形があったそうです。
子宝に恵まれるようにと貰ったそれを大切に、同時に何時でも見れるような、手が届くような場所に保管していたそうです。
ところが遊びに来た父さんの妹さんの娘がその内の一つを不注意で割ってしまったそうです。まだ幼い子だししょうがないと諦めましたが、当時お腹にいた子(多分男の子)は程なくして流産してしまったそうです。
その内、母自らも不注意で二つ割ってしまったらしく、二人目の子供は死産(こちらも男の子でした)、三人目の子供はまだ性別もよくわからないうちに流産してしまったそうです。
残った一つを大事に引き出しの奥にしまって、4度目の妊娠、父さんが有名な病院に母さんを入院させ、年齢も40近くだったこともあり帝王切開をする事に。
手術を承ったのは新人産婦人科医であり、不安はありつつも無事成功、そうして生まれた子供が私らしいです。
その後、しまっておいた最後の人形は見つからなくなったそうですが私を大切に育ててくれています。
私はいたって健康でもうすぐ成人しますが、父さんと母さんは同年代の両親より年老いていて心配することもしばしば…
一番上の兄が生まれていたら既に両親を養えたんだろうなぁ
まぁそんな関連があるのかないのかよくわからないお話ですが、皆さんも結婚祝いには割れにくいものを送るのをお勧めします。
ところが遊びに来た父さんの妹さんの娘がその内の一つを不注意で割ってしまったそうです。まだ幼い子だししょうがないと諦めましたが、当時お腹にいた子(多分男の子)は程なくして流産してしまったそうです。
その内、母自らも不注意で二つ割ってしまったらしく、二人目の子供は死産(こちらも男の子でした)、三人目の子供はまだ性別もよくわからないうちに流産してしまったそうです。
残った一つを大事に引き出しの奥にしまって、4度目の妊娠、父さんが有名な病院に母さんを入院させ、年齢も40近くだったこともあり帝王切開をする事に。
手術を承ったのは新人産婦人科医であり、不安はありつつも無事成功、そうして生まれた子供が私らしいです。
その後、しまっておいた最後の人形は見つからなくなったそうですが私を大切に育ててくれています。
私はいたって健康でもうすぐ成人しますが、父さんと母さんは同年代の両親より年老いていて心配することもしばしば…
一番上の兄が生まれていたら既に両親を養えたんだろうなぁ
まぁそんな関連があるのかないのかよくわからないお話ですが、皆さんも結婚祝いには割れにくいものを送るのをお勧めします。
怖い名無しさん、投稿ありがとうございました
【百物語 第七十八話】呼ぶ声
今回、この場を借りさせてもらいある話をしたいと思います。
その話とは母が実際に体験したと言う不思議な実話についてです。
母は看護師の仕事をしていて、今でも仕事を続けているベテランです。
母は夕方くらいに帰ってくるので今の所、仕事場で夜勤をしてません。
しかし、この体験をしたのはまだ母が父と出会って間もない頃、夜勤をしていた時のことです。
母は夜勤の見回りをしていて交代時間が回ってきた時、「やっと、これで休める」と病院にある看護師の人達が休む休憩室に入ってソファーで仮眠を取っていた時の事です。
急にひどい金縛りにあったそうで、体は動かないは目は開かないは声はでないわでちょっとしたパニックになったそうです。
そして、耳元でこんな事を聞いたそうです。
『○○さん(患者さんの名前)が具合を悪そうにしてるよ』
それを聞いた時、金縛りはパッと解けたそうです。母はこの時、(他の看護師の人が呼んでくれたのかな?)と思ったそうです。で、そのあと本当に患者さんの一人が具合を悪くしていたそうです。
幸い、命に別状はなかったそうです。
そして、あの声の主は誰なのか、他の夜勤していた看護師さんに患者さんの手当てが終わった後聞いた所、こんな事を言ったそうですよ。
「いいえ、貴女が入った後は誰も休憩室には入らなかったわよ?」
…それでは、あの声の主は誰だったのでしょうか、真相は謎のままです。
母は夕方くらいに帰ってくるので今の所、仕事場で夜勤をしてません。
しかし、この体験をしたのはまだ母が父と出会って間もない頃、夜勤をしていた時のことです。
母は夜勤の見回りをしていて交代時間が回ってきた時、「やっと、これで休める」と病院にある看護師の人達が休む休憩室に入ってソファーで仮眠を取っていた時の事です。
急にひどい金縛りにあったそうで、体は動かないは目は開かないは声はでないわでちょっとしたパニックになったそうです。
そして、耳元でこんな事を聞いたそうです。
『○○さん(患者さんの名前)が具合を悪そうにしてるよ』
それを聞いた時、金縛りはパッと解けたそうです。母はこの時、(他の看護師の人が呼んでくれたのかな?)と思ったそうです。で、そのあと本当に患者さんの一人が具合を悪くしていたそうです。
幸い、命に別状はなかったそうです。
そして、あの声の主は誰なのか、他の夜勤していた看護師さんに患者さんの手当てが終わった後聞いた所、こんな事を言ったそうですよ。
「いいえ、貴女が入った後は誰も休憩室には入らなかったわよ?」
…それでは、あの声の主は誰だったのでしょうか、真相は謎のままです。
ふんわり稲穂さん、投稿ありがとうございました
【百物語 第七十七話】そこにあるもの
これは私が中学の頃(昭和50年代後半)に、実際に父が母に話しているところをそばで聞いていた話です。
出来事については本当かどうかはもちろん確認できません。話していたことは本当です。
父は内装業を営んでおり、当時は戸建て住宅もよく売れていた時代だったと思われます。
ある日、現場から帰ってきた父が、明日は「お払い」が入るから予定が変わったというようなことを母に告げていました。
最初、建前(上棟式)かなと思って聞いていました。建前がある日は仕出しの弁当や餅、お酒などを包んで持ち帰ってきていたので、そういう儀式があることは知っていました。
ところが話は違って、開発中のその地域全体のお払い?のようでした。
父の話から、既に内装工事ができる家もあれば、まだブルトーザーやショベルカーで土地を整備している場所もあるのだと認識できました。基礎工事というものかもしれません。
問題が出たのは土地を整備している方からのようで、掘ったり、埋めたり、ならしたり…
その中の、掘る作業で問題が出たようです。
ショベルカーや、そういった大きな重機で掘っていく段階で、「ある深さ」から全く掘れなくなったというのです。
子供心に「そこに何かあるからでは?」と思って聞いていました。硬く大きな岩盤があるとか、大きな木の根やそういうものです。
それでも重機で掘れないとなると相当なモノです。
作業員達はスコップ片手に調べに降りたそうです。そんなに深くはないのだと思います。
そこには確かに「何か」がありました。
それは、
人骨。人の骨だったそうです。
警察やそういう関係の人も来たようです。
それで、お払いというか供養みたいのをするという話でした。
…今思えば、「重機の力で掘れない」のではなく、突然エンジンが切れるとか、かからなくなるとか、そういう話なのかなと思っています。
いずれにせよ非科学的なので一切説明はつかないのですが、そういう話も実際にあるのかなぁと思っています。
工事現場から人骨や戦時中の不発弾が出てくること自体は珍しいことではないようですし。
かのんさん、投稿ありがとうございました
ある日、現場から帰ってきた父が、明日は「お払い」が入るから予定が変わったというようなことを母に告げていました。
最初、建前(上棟式)かなと思って聞いていました。建前がある日は仕出しの弁当や餅、お酒などを包んで持ち帰ってきていたので、そういう儀式があることは知っていました。
ところが話は違って、開発中のその地域全体のお払い?のようでした。
父の話から、既に内装工事ができる家もあれば、まだブルトーザーやショベルカーで土地を整備している場所もあるのだと認識できました。基礎工事というものかもしれません。
問題が出たのは土地を整備している方からのようで、掘ったり、埋めたり、ならしたり…
その中の、掘る作業で問題が出たようです。
ショベルカーや、そういった大きな重機で掘っていく段階で、「ある深さ」から全く掘れなくなったというのです。
子供心に「そこに何かあるからでは?」と思って聞いていました。硬く大きな岩盤があるとか、大きな木の根やそういうものです。
それでも重機で掘れないとなると相当なモノです。
作業員達はスコップ片手に調べに降りたそうです。そんなに深くはないのだと思います。
そこには確かに「何か」がありました。
それは、
人骨。人の骨だったそうです。
警察やそういう関係の人も来たようです。
それで、お払いというか供養みたいのをするという話でした。
…今思えば、「重機の力で掘れない」のではなく、突然エンジンが切れるとか、かからなくなるとか、そういう話なのかなと思っています。
いずれにせよ非科学的なので一切説明はつかないのですが、そういう話も実際にあるのかなぁと思っています。
工事現場から人骨や戦時中の不発弾が出てくること自体は珍しいことではないようですし。
かのんさん、投稿ありがとうございました
【百物語 第七十六話】取次ぎの女性
これは、まだ私が小学校中学年の頃の話。年号はまだ昭和だった。
ある日、隣のベッドで新聞を読んでいた母が、「あらー?!」と、感嘆の声を漏らした。
「何があった?」と、私が聞く前に自分から説明を始めた。
当時うちの両親の関係は泥沼化していた。
母は、別れを切り出していたが父はどうしてもそれに応じず、連日二人は長い話し合いをしていた。母はもうそれに辟易し切っていて、近所に部屋を借りて半別居をする様になった。私がまだ小さかったから、遠くに行くことは出来無かったのだろう。
当時、家は山の手線某駅の近くに有り、母は線路の向こう側のラブホ街の真っ只中にアパートを借りた。私は其処に数回行った筈だが、もうその部屋の記憶は無い。
母は其処に本格的に住むつもりはなかったらしく、電話を引かなかった。当時は携帯は無かったから。そこで、自分に連絡をくれる人には、同じアパートに住む人に連絡する様に言っていたらしい。
その母に取次ぎをしてくれていた女性に私は一回も会ったことが無い。しかし、この過程で母とこの女性は、一緒に座って世間話をする様になったらしい。
そしてある日、その女性は母にあることを打ち明けた。
女性は、そのアパートに住む前は、東京の何処かに部屋を借りていたが、毎晩枕元に女が立って彼女を見下ろすようになった。その現象が続き、堪らなくなったその女性は、他の部屋を借りて移ったのだが、その努力も虚しく女の幽霊は新しい部屋にも出る様になってしまった。その後、お祓いその他の努力があったかは母は話さなかったし、女の霊がどんなルックスだったかなどの詳細も無かった。
ただ母が本当に驚きながら私に言うには、その取次ぎの女性はすでに殺害されていて自分の部屋の洋服箪笥に押し込められていた事が発覚したという記事をたった今読んでいた新聞の中で見つけてしまったという。犯人は、関係のあった男で痴情のもつれだったいう。勿論、彼女が遭遇した心霊現象とこの殺人事件との因果関係は不明。
今考えると、10歳にもならない子供にこんな不吉な事を吹き込むなんて本当に家の母は非常識だと思うが、余りの驚きで自分一人で抱えてる事が出来無かったのであろう。
しかし、未だに身近に起こった嫌な後味のこわ〜い話である。
母は、別れを切り出していたが父はどうしてもそれに応じず、連日二人は長い話し合いをしていた。母はもうそれに辟易し切っていて、近所に部屋を借りて半別居をする様になった。私がまだ小さかったから、遠くに行くことは出来無かったのだろう。
当時、家は山の手線某駅の近くに有り、母は線路の向こう側のラブホ街の真っ只中にアパートを借りた。私は其処に数回行った筈だが、もうその部屋の記憶は無い。
母は其処に本格的に住むつもりはなかったらしく、電話を引かなかった。当時は携帯は無かったから。そこで、自分に連絡をくれる人には、同じアパートに住む人に連絡する様に言っていたらしい。
その母に取次ぎをしてくれていた女性に私は一回も会ったことが無い。しかし、この過程で母とこの女性は、一緒に座って世間話をする様になったらしい。
そしてある日、その女性は母にあることを打ち明けた。
女性は、そのアパートに住む前は、東京の何処かに部屋を借りていたが、毎晩枕元に女が立って彼女を見下ろすようになった。その現象が続き、堪らなくなったその女性は、他の部屋を借りて移ったのだが、その努力も虚しく女の幽霊は新しい部屋にも出る様になってしまった。その後、お祓いその他の努力があったかは母は話さなかったし、女の霊がどんなルックスだったかなどの詳細も無かった。
ただ母が本当に驚きながら私に言うには、その取次ぎの女性はすでに殺害されていて自分の部屋の洋服箪笥に押し込められていた事が発覚したという記事をたった今読んでいた新聞の中で見つけてしまったという。犯人は、関係のあった男で痴情のもつれだったいう。勿論、彼女が遭遇した心霊現象とこの殺人事件との因果関係は不明。
今考えると、10歳にもならない子供にこんな不吉な事を吹き込むなんて本当に家の母は非常識だと思うが、余りの驚きで自分一人で抱えてる事が出来無かったのであろう。
しかし、未だに身近に起こった嫌な後味のこわ〜い話である。
ととやまトトさん、投稿ありがとうございました
【百物語 第七十五話】ハントゥ
東南アジアでの体験談です。
事務仕事が一段落してちょっと現場巡回してたら何やら人だかりが出来てる。
人だかり=トラブルの可能性大なので急いで人だかりの中心へ行ってみると…。
そこには腹にロープを巻き付けられて両手両足を4,5人に抑えつけられている男がいた。
口から赤い泡を吹き(口の中切っていた)、抑えられながらも尚手足をバタつかせながら叫び狂っている。
状況がいまいち把握できないが、今までの経験的に大怪我をしたが運悪く気絶できなかった奴に似ている。
とっさに今日の仕事内容を思い浮かべ、現地スタッフに「(高い所から)落ちたのか!?」と質問した。
以下現地スタッフ=スで。
皆口々に
スA「違います!!ハントゥです!!」
スB「ハントゥが出た!!」
スC「ハントゥがこいつの中に入った!!」
と俺に説明してきた。
大体言ってる事は分かるが肝心のハントゥが分からん。
俺「ハントゥって何だ??」
スA「ボス。ゴーストの事です。」
俺「は???」
スA「ゴーストは分かりますか?」
俺「ゴーストの意味は分かる。…何言ってんの。」
俺はかなり怪訝な顔をしていたと思う。
ここでスタッフBが俺に説明しているスタッフAに耳打ち。
納得した感じで再度俺に説明。
スA「ボス。この国のゴーストは昼も出るんですよ。」
そんな事気にしてんじゃねーよ…。
俺「分かった。とにかく病院に連れて行こう。」
と指示。
しかし車を待っている間ハントゥの話を踏まえて改めて男を見てみる。
相変らず叫んでいるが内容は
男「ウワー」「やめてくれー」
みたいな感じ。
目はひん剥いていて絶えずあっちこっちを見ている。
手足もただバタつかせているというより、逃げようとしたり手で何かを自分の方へ来ないようにしたりしている。
たまに目が一点で止まったと思ったら手で顔を隠す。
確かに怖い幽霊見たらこんな反応するかもなーと思いながら、ふと気になったんで質問。
俺「そういや何でこいつ腹にロープ巻いてんの?」
スA「高所作業中にハントゥに入られたんで。ロープで何とか下ろしたんですよ。」
とデジカメ写真を見せられた。
確かに皆で男をロープで下ろしてる。
正直凄いなと思った。
そうこうしているうちに車到着。
俺「よし。病院へ搬送するぞ。抑えてる奴も一緒に乗り込め。」
ところが皆動かない。
何かと思ったらまたスBが何やらスAに耳打ちしている。
スA「ボスラッキーです。現場に○○○がいます。呼んだんですぐ来ます。もう大丈夫です。」
とか言ってきた。
○○○は聞き取れなかった。
後で分かるが要するに祓い屋みたいな奴らしい。
また俺が怪訝な顔をしていると祓い屋登場。
てかうちの作業員のおっちゃんじゃねーか!!
でも周りを見ると皆今までの騒ぎと打って変わって安心しきっている。
あー良かったーと笑顔まで見せてる。
まだ男は絶賛暴れ中なんだけど…。
ホントは責任者として病院に連れてくのが正解だと思うけど、雰囲気としてはもう事は終わるという感じ。
思わず流れを見てしまった。
男はまだ暴れながら叫んでいるが強引に座らせられる。
祓い屋は落ち着き払った感じで男の後ろに回ると思いっきり肩を叩いた。
その瞬間男は大人しくなった。
というか気絶した。
俺「何今の?」
スA「もう大丈夫ですよ。」
祓「事務所に寝かせときましょう。起きたら水でも飲ませてやって下さい。」
いや説明しろよ。
何にせよこれだけでお祓い終了らしい。
何か府に落ちないが一応トラブルには違いない。
上司に電話で経緯を説明すると
上「あー。大変だったねー。お疲れさん。」
俺「やっぱ病院に連れった方が…」
上「大丈夫大丈夫。よくあるし。」
よくあるんだ。
事務所に戻ったら俺の席の後ろの床で寝てる。
暴れねーだろーなと思いながら仕事してたら男は一時間後位に起きてきた。
水を渡して話を聞いてみると
男「ハントゥに憑かれたの初めてですよ。びっくりしました。」
俺「大丈夫なのか?今日はもう帰った方がいいぞ。」
男「口の中切ってて痛いです(笑)とりあえず仕事に戻ります。」
俺「そうか。気をつけろよ…。」
としか言いようがなかった。
タフな奴らだ…。
以上が体験談になります。
補足ですが後でスタッフに色々聞きました。
ハントゥは黒い幽霊でこの国ではポピュラーなやつ。
辞書にも普通に載ってました。
現地語→日本語の辞書だとハントゥ→幽霊でやっぱり載ってます。
取り憑かれたらほっとけば2,3日で死ぬらしいです。
それ日本だとかなり凶悪な部類の幽霊のような気が。
てかそれを道具なし、呪文なしで祓えるこの国の祓い屋って一体…。
ちなみに4年間で3回遭遇してます。
ハントゥ自体は見てないので取り憑かれた奴と祓い屋です。
1回はうちのスタッフですが残り2回はお客さんのところに訪問している時。
場所は全部違いますが遭遇するたびに適当に現地スタッフの祓い屋というか祓える奴が来て一撃必殺で終わりです。
祓いの専門職ですらないです。
何にせよ面白い体験だったのでこれ以降怖い話にハマりました。
口から赤い泡を吹き(口の中切っていた)、抑えられながらも尚手足をバタつかせながら叫び狂っている。
状況がいまいち把握できないが、今までの経験的に大怪我をしたが運悪く気絶できなかった奴に似ている。
とっさに今日の仕事内容を思い浮かべ、現地スタッフに「(高い所から)落ちたのか!?」と質問した。
以下現地スタッフ=スで。
皆口々に
スA「違います!!ハントゥです!!」
スB「ハントゥが出た!!」
スC「ハントゥがこいつの中に入った!!」
と俺に説明してきた。
大体言ってる事は分かるが肝心のハントゥが分からん。
俺「ハントゥって何だ??」
スA「ボス。ゴーストの事です。」
俺「は???」
スA「ゴーストは分かりますか?」
俺「ゴーストの意味は分かる。…何言ってんの。」
俺はかなり怪訝な顔をしていたと思う。
ここでスタッフBが俺に説明しているスタッフAに耳打ち。
納得した感じで再度俺に説明。
スA「ボス。この国のゴーストは昼も出るんですよ。」
そんな事気にしてんじゃねーよ…。
俺「分かった。とにかく病院に連れて行こう。」
と指示。
しかし車を待っている間ハントゥの話を踏まえて改めて男を見てみる。
相変らず叫んでいるが内容は
男「ウワー」「やめてくれー」
みたいな感じ。
目はひん剥いていて絶えずあっちこっちを見ている。
手足もただバタつかせているというより、逃げようとしたり手で何かを自分の方へ来ないようにしたりしている。
たまに目が一点で止まったと思ったら手で顔を隠す。
確かに怖い幽霊見たらこんな反応するかもなーと思いながら、ふと気になったんで質問。
俺「そういや何でこいつ腹にロープ巻いてんの?」
スA「高所作業中にハントゥに入られたんで。ロープで何とか下ろしたんですよ。」
とデジカメ写真を見せられた。
確かに皆で男をロープで下ろしてる。
正直凄いなと思った。
そうこうしているうちに車到着。
俺「よし。病院へ搬送するぞ。抑えてる奴も一緒に乗り込め。」
ところが皆動かない。
何かと思ったらまたスBが何やらスAに耳打ちしている。
スA「ボスラッキーです。現場に○○○がいます。呼んだんですぐ来ます。もう大丈夫です。」
とか言ってきた。
○○○は聞き取れなかった。
後で分かるが要するに祓い屋みたいな奴らしい。
また俺が怪訝な顔をしていると祓い屋登場。
てかうちの作業員のおっちゃんじゃねーか!!
でも周りを見ると皆今までの騒ぎと打って変わって安心しきっている。
あー良かったーと笑顔まで見せてる。
まだ男は絶賛暴れ中なんだけど…。
ホントは責任者として病院に連れてくのが正解だと思うけど、雰囲気としてはもう事は終わるという感じ。
思わず流れを見てしまった。
男はまだ暴れながら叫んでいるが強引に座らせられる。
祓い屋は落ち着き払った感じで男の後ろに回ると思いっきり肩を叩いた。
その瞬間男は大人しくなった。
というか気絶した。
俺「何今の?」
スA「もう大丈夫ですよ。」
祓「事務所に寝かせときましょう。起きたら水でも飲ませてやって下さい。」
いや説明しろよ。
何にせよこれだけでお祓い終了らしい。
何か府に落ちないが一応トラブルには違いない。
上司に電話で経緯を説明すると
上「あー。大変だったねー。お疲れさん。」
俺「やっぱ病院に連れった方が…」
上「大丈夫大丈夫。よくあるし。」
よくあるんだ。
事務所に戻ったら俺の席の後ろの床で寝てる。
暴れねーだろーなと思いながら仕事してたら男は一時間後位に起きてきた。
水を渡して話を聞いてみると
男「ハントゥに憑かれたの初めてですよ。びっくりしました。」
俺「大丈夫なのか?今日はもう帰った方がいいぞ。」
男「口の中切ってて痛いです(笑)とりあえず仕事に戻ります。」
俺「そうか。気をつけろよ…。」
としか言いようがなかった。
タフな奴らだ…。
以上が体験談になります。
補足ですが後でスタッフに色々聞きました。
ハントゥは黒い幽霊でこの国ではポピュラーなやつ。
辞書にも普通に載ってました。
現地語→日本語の辞書だとハントゥ→幽霊でやっぱり載ってます。
取り憑かれたらほっとけば2,3日で死ぬらしいです。
それ日本だとかなり凶悪な部類の幽霊のような気が。
てかそれを道具なし、呪文なしで祓えるこの国の祓い屋って一体…。
ちなみに4年間で3回遭遇してます。
ハントゥ自体は見てないので取り憑かれた奴と祓い屋です。
1回はうちのスタッフですが残り2回はお客さんのところに訪問している時。
場所は全部違いますが遭遇するたびに適当に現地スタッフの祓い屋というか祓える奴が来て一撃必殺で終わりです。
祓いの専門職ですらないです。
何にせよ面白い体験だったのでこれ以降怖い話にハマりました。
まとろさん、投稿ありがとうございました
【百物語 第七十四話】雨の日
雨の日って憂鬱になるよね。
皆は雨の日ってどうやって過ごすかなぁ?お仕事がお休みだったりしたら…。
読書したり、ティータイムをゆっくりしたり、趣味をしたり、映画を見たり、ぼーっと外を眺めてみたり、あえて出かけてみたり?
私?私はね、雨の日にやることは絶対に決まっているの。
お家のお掃除をすることなんだ。
何年か前からの私の雨の日の過ごし方。
ふふふ。
雨の日のお掃除はオススメだよ。埃がたたないからね。
あ、ごめん関係ない話しちゃった。
えーとね、そう!
雨の日のお話をするね。
かなり前に一人で、少し地方の村へ行った時のこと。
友達から時間があったら是非にと言われて行ったんだよ。
とても綺麗な景色だから写真とったらいいよ、と。
その村は大きな川が近くにあって、とってものどかで綺麗なの!
観光地ではないから静かな所なんだけど、お祭りの時なんかとっても人で賑わうらしいし、伝統の花飾りを投げる儀式とかもしている歴史ある所なんだってそこの人に聞いた。
村に住む一人暮らしのおばさんのお宅に泊めてもらってね、川魚の伝統料理とか、名産の野菜とか振舞ってもらってとっても楽しかったのよ。
村の人も凄く良くしてくれてねぇ。
景色の綺麗な所教えてくれたり、魚の釣り方教えてくれたり、工芸品見せてくれたりね。
最高に楽しかったの。
ただ…。
ただ一つ気になったことが…。
ある日ベッドで寝て起きたら…布団がぐっしょり濡れてるのよ。
窓が開いて雨が吹き込んだワケでも、雨漏りした様子もないのに!
なんだかおばさんには言えなかったけど。
でも起きると毎朝毎朝、濡れてるの。
部屋の中も、あちこちに小さな水溜りが沢山。
夢だと思ってたけど、夜中にピタ、ピタ、ピタ、ピチョン…って水滴が落ちるような音がするの。
だって部屋の中なのに、水音なんておかしいと思うでしょ?
濡れた音…ゆっくりと近付いては離れるその音がとっても不気味で…。
まるで濡れた誰かが歩き回るみたいな音。
まさか、泥棒?って思って、気味悪いし、四日目くらいに我慢できなくなっておばさんに言った。
そしたらね…
『雨の日だからねぇ…』
って説明された。
その時はそれで納得したんだけど…。
でも!!絶対に雨漏りなんかじゃないよ!
…だって、部屋の中の水溜りが人の足の形をしてるんだもの。くっきりと。
床の部分を見たらね、足の形なの…くっきり指の部分まで見えてるのもあった。
誰かがびしょ濡れのまま部屋中を歩き回った、そんな感じ。
てんてんと続いていく足跡、部屋中に…。
よく見るとその村はどこか不自然な所が多かったの。
川の近くにある記念碑みたいなものとか、…よく見るとお墓だったり…。
ヘンな魔除けのお札みたいなものが家中の戸に貼ってあったり…。
村を囲む柵には何かの警告の言葉が書かれていたり、雨の日は全員で家の掃除をしだしたり…なんかヘンよね?
村の女の子と仲良くなったんだけど、その子に聞いてみたの。
何で墓地じゃなくて川の近くにお墓が二つだけあるの?流されたりしない?家中に貼ってあるお札は何のおまじないなの?って。
その子はお喋り好きだったから色々話してくれた。
お札は昔偉いお坊さんが来て、もれなしのお礼に魔除けとして村に置いてくれたもので、ずっと大切にしてるんだとか。
雨の日は必ずお掃除をする決まりがあって村独特の風習だとかね。
そして川の近くにある不自然なお墓の話……。
とっても悲劇的な話なんだ…。
あの村に昔、…本当に昔のことだよ?ある姉妹がいたらしいの。
姉は誠実で働き者、妹は姉思いの優しい子、二人とも大変美しい姉妹だった。
両親を早くに亡くしたその二人は仲良く仲良く暮らしていたの。
けれども村の一部の人達はその姉妹を疎ましく思っていた。
何故なら二人は大変な美人だったそうで、村中の男の子達が競って求婚したんですって。
そのせいで見向きもされなくなった女の子達が、その姉妹を妬んで嫌っていたみたい。
嫉妬って怖いよね。
ある日村長さんの家に泥棒が入ってお金が盗まれたの。
その泥棒と鉢合わせしたのか、村長さんは殺されてしまって村は大騒ぎになった。
犯人は誰だろう、という話が出た時にその村長の娘さんがこう言った。
『私犯人を知ってるわ。お父様を殺してお金を盗んだのはあの娘達よ!私見たもの!!』
…ってね。
犯人とされたのはその姉妹。
でもきっとそれは村長の娘の勝手な憶測だったの。
村長の娘も他の女の子と一緒で好きな男の子が姉妹ばかり気にかけるのを妬んでのこと。
そして邪魔な者は消してしまえと言わんばかりに、村の女の子達は次々と彼女達が犯人だと言い出した。
姉はその時病気で働けなかったらしく、村の中では厄介者だったみたい。
だから今までの求婚者達も冷たくて、誰も二人を助けようとはしなかったの。
よく考えたら病気のお姉さんがベッドを抜け出して盗みなんかすると思う?
…酷い話だね。
証拠も何もないまま、二人は犯人にされたの。
当時は怖かったね…村の人達がそうと決め付けただけで犯人にされてしまった…。
その村の掟により、二人は殺人と盗みの罪で川へ落とされるという罰を受けることになった。
静かに見える川は実は凄く深くて、流れも速いの。
そして恐ろしいのは手足を縛って川に落とされるということ。
どんなに泳ぎが出来てもそれじゃ助からないよね。
いわゆる死刑の一つだよ。
その日は雨だった。激しい雨の日。
ずぶ濡れの二人は橋の上に連れて行かれ、その間にも周りからは石を投げられた。
悔しかったでしょうね、恐ろしかったでしょうね…。
落とされる直前まで、無実を訴えていた二人だったけど無慈悲な腕が二人の体を橋の上まで持ち上げて…。
その瞬間、姉の方がこう叫んだ。
『待って!正直に言います…犯人は…村長を殺したのは私です、私一人です!!妹は何も知りません。離してあげて!』
愛する妹を助ける為に、お姉さんは嘘をついたの。
どちらも犯人でないのに…可哀相だね。
妹もきっと同じように言いたかったに違いない、姉のことを誰よりもきっと愛していたんでしょうから。
でも妹は姉を庇えなかった。
…それには理由があったの、妹の方はね…生まれつき口が聞けなかったのよ。
昔だから文字は誰でも書けた訳じゃない。
妹の言葉はアイコンタクトだけ、それは姉にしか分からなかった。
伝えたくても、きっと姉以外には分かってもらえなかったのでしょうね。
その姉の言葉で妹の方は許されたけれど、お姉さんの方は川へ落とされ死んでしまった。遺体は流され見つからないまま。
…妹はどんな気持ちだったでしょうね……。
これだけでも悲しくなるね、けれどもこの話には続きがあって……。
…無実の罪で姉を殺された妹は、お姉さんが殺された一週間後忽然と姿を消した。
それから数日たったある雨の日の夜。
村の半鐘を鳴らす人が居たの、それはあの妹だった。
それに気付いた村人は起き出した。
妹は姿を見せた途端走り出した。
逃げるように川へ向かう妹を追うと…村を川から守る堤防が壊れかけてたの。
『大変だ、直さないと!』
これは大変と村の男達は道具を持って川へ向かった。
川は雨で増水していたけれど、なんとか力を合わせて土嚢を積んだり石を積んだりして村を守ろうとした。
けれど次の瞬間、ありえないほど大きな鉄砲水が来て、そこに居た村人達は流されてしまったんだって。
30人くらい居たはずなのに、水がそこに来た後、誰一人…立っては居なかった。
妹はというと…一人高い所からその様子をケタケタ笑って見ていたらしいの…声は出さずにね。
そしてその妹は村へと向かった。家に残っている女の人や子供達の所へ。
雨音に紛れて妹は一つの家に侵入した。
持ち出していた斧で、そこに居た女の子を…。
家中、いえ村中の家を周って彼女は人々をその斧で手にかけた。
生き残った人の話によると雨の中逃げ惑う人達を追いかけて妹は半狂乱になりながら殺し続けたそうよ。大きな斧で。
騒ぎを聞いた隣の村から人が来た時、半分以上の村人が殺されてしまっていたの。
あちこちに死体が転がって、どこの家も水と血の混じった足跡だらけだったというから…想像するだけでも怖いよね。
その妹はその事件以降行方不明になったけど。
噂では川で姉の後を追って自殺したんだとか…。
村人への復讐をしたのね、この話は一部始終を目撃した人…たまたま無事だったんだね。
生き残った中に姉妹を陥れたあの村長の娘さんが居てこれはその人の話らしいの。
隠れてて助かったようだけど、その後ずっと姉妹の幻覚に悩まされて精神を病んでしまい最後には井戸に身を投げて自殺したんだって。
話では、その娘さんは病んでる間ずっと姉妹の名を呼んでいたらしいよ…。
その大量殺人の事件以降、村ではね、雨の日になると必ず女の子が二人、川の近くに現れるんだって。
ずぶ濡れの女の子が二人、仲良く手を繋いで村や川付近をウロウロと歩き回るらしいんだ。
まだ村を憎んでいるのかな?
川の近くのお墓はあの姉妹のもの。
…誰も埋まってはいないんだけど、鎮魂の意味も込めて後々作ったみたい。
不思議なことにどんなに川が氾濫しても、土砂崩れがあっても、あの墓石だけは流されたりしないと不思議がられてた。
村では今でも濡れた足跡が色々な所に現れるんだって。時には家の中も。
村の家中に時々濡れた足跡が残されているんだそうだよ。私が見たのと同じ。
まだ姉妹で彷徨っているなんてとっても可哀相…。
彷徨う二人はなんか若い女の子の居る所によく来るみたいだから、若い子達は雨の日、お守りを抱いて寝るみたい。
村長の娘さんを探しているのかな?一番憎いはずの相手を、自分の手で葬れなかったから?
それとも自分達に冷たくした村の女の子全体を憎んでいたのかなぁ?
早く安らかに眠って欲しいと思うよ。
私その話聞いた時泣いちゃった。
そのお話してくれた子は貴女優しい人ね、泣かせちゃってごめんね、って言ってくれたけど。
私凄く悲しくて切なくて…しばらく動けなかった。
お墓にお花沢山供えたよ、村の周りも綺麗にしたりした。
私……二人を思うと苦しい。
こんな素敵な村にそんな惨劇と悲劇があったなんて…!
村の人達はね、雨の日は家中の掃除をするの。最初に言ったね、この村だけの風習…もう伝統のようなものだよ。
これはずーっと決められた決まりごと。
何故?
だって…家中に水溜りと足跡が出来るんだもの。やらなくちゃ…ね?
しばらく滞在してその不思議な伝統に縛られた村を眺めたよ。
最初は怖かったし嫌だなと思ったけど不思議と、慣れてしまうものだねぇ。
悲しい思い出と共に私は帰宅した。
家へ帰ってからしばらくしてなんだけど、雨の日。
そう、雨の日。
気がつくとね、家中に水溜りが出来てたの…。
夜ベッドから起きようとして足突っ込んじゃった時はすっごい声で叫んだよぅ…。
だっていきなりびちゃっ!って足が冷たいものを踏んだの、嫌でしょ!?怖いよねぇ!?
夜にあの水滴が落ちるような奇妙な音がするし、家中水溜まりだらけになるし私困っちゃった。
今までなんともなかったのに。
雨漏りじゃないの、外は雨だったけど絶対に濡れない場所が濡れてるんだもん。
天井は何もないのに何で床に水溜まりが出来てるの?
私の枕が何でそんなに濡れてるの?
テーブルの下にどうしてそんな大きな水溜りが出来てるの!?
…って物凄く、動揺した。
勿論水道の故障でもない、私が何か零したわけでもないし。
酷いの。
カーペットも布団も椅子もピアノも濡れてるんだよ。
拭いても拭いても…終わらなくて。
雨の日っていったけど、絶対に雨漏りや湿気が原因じゃない。
一階のホールとか、寝室とか、絶対に雨なんか入り込まない場所でも濡れてるんだもの。
足跡に水溜りが沢山。
カーペットはびちゃびちゃ。
濡れた誰かが歩き回ってるとしか思えない。
あの村に行った時から何かがおかしいの…。
私も不本意なんだけど、雨の日は家中の掃除をするのが普通になってた。
私、思ったの。
きっと何らかの事情で私にその二人がついて来ちゃったんだって。
私も女の子だから…憎い仇の娘さんじゃないかと探しに来たのかな。
どんなに探してももう憎い仇はこの世にいないのに。
あまりにもお墓に近付きすぎたから?
それとも私がその村長の娘さんに似ていたのかな?
まあ、そんなことはどうでもいいんだけどね。
でも…私の家に居るのは間違いない。きっとあの村から連れてきちゃったの。
雨の日は憂鬱だった。
家中のお掃除と水滴を綺麗にとる仕事は大変だもの。
ごめんねぇ…。
前に妹が怒ったことがあった、『なんで姉さんが家に来ると、そこらじゅうが濡れるんだ?掃除が大変なのに』って。
お姉ちゃんじゃないのよ…。ごめんね…。
私の後を着いて来てるのね、きっと。
そうゆうのって、共感してくれた人や、思ってくれてる人の所について来ちゃうことがあるんですって。
私があまりにもお墓の前で色々聞いたからからかなあ?
無闇に聞くものじゃないよ、本当に。
でも…もう慣れちゃった。
床は濡れたら拭けばいいし、晴れた日には気にならいわ、私は気にしないようにしてる、これが生活の一部であり、私の雨の日の過ごし方。
少し大変だけど。
寝てると雨漏りしてもいない天井からピチョン、って水滴が顔に落ちてきたりもするのは少し困っちゃうけど…でも慣れたから大丈夫。
あ、夜中にガラス窓をふと見たらね。
私の後ろに女の子の姿がちらっと見えたことがあったの。
髪の長いずぶ濡れの、女の子。
でも酷く恨めしそうな顔で睨んでいたよ、気持ちは痛いほど分かるけどどうしようもないでしょう?
そんな感じでしばらくたったある日。
夜中に目が覚めたの。
その日は何でだかパチ、と冴えちゃって。
雨の音がしたからああ、またお掃除かなーって思って目を開いたら。
ベッドを取り囲むようにして女の子が二人、私の顔を覗き込んでたの。
ずぶ濡れで、髪の長い女の子。
一人は栗色のウェーブのかかった髪、もう一人は金髪のお下げ髪。
仲良く手を繋いでいたよ。
顔色は酷く悪くてね、髪の毛の間からこっちを見てる目は見開いたまま瞬きしていない。
不気味で恐ろしい顔…。
生臭いような臭いまで漂ってて…。
ポタポタ二人の髪から垂れる水滴が私の顔にまでかかって怖かったし冷たかった。
え、何!?って思ったけど。
『ごめんね助けてあげられなくて。
でも、分かって!いつまでもこの世に居たって何にもならないんだよ。
貴方達の気持ちは分かる、憎いし悔しかったのよね?悲しかったのよね?
お願い、許してあげて?
早く次の世界へ行ったほうがいいよ、そこは寒いでしょう?悲しいでしょう?
天国へ行ったらきっと楽しいよ、生まれ変わったらもっと楽しいよ…恨むより許してあげて!』
私はこう心の中で呼びかけたの。
すると二人は顔を見合わせた。
私、その時も泣いちゃった。
怖かったって言うより、彷徨い続けるのが可哀相になって。
そしてしばらくしたら、少しだけ優しい表情になってね。私の思い込みかもだけど。
二人はスッと消えてくれたの。
二人が居た後には水溜りが残っていたけど、姿は跡形もなく消えてた。
悲しい悲劇は、繰り返してはいけないよね。
どうか来世では、幸せになってるといいなぁ…。
ん?
今でも雨の日にはお掃除するよ?
え、だって…あちこち水溜りだらけなんだもの。
……え?うん。その栗毛と金髪お下げの二人はもう居ないよ?あれ以来見かけないし。
でも…。
前に言ったでしょ、ガラス窓に写った女の子。
あれ、よく考えたら私の見た二人の女の子のどちらでもなかったんだよ、私すっかり忘れてて…えへ。
そこでふと勘違いに気がついたの。
今思えば水溜りも足跡も、妙に多かった気がするし、村に張ってあったお札も、あれって魔除けじゃなくて中にある何かを封じ込める意味合いの札だったようだし…。
何よりインターネットで調べたらそこは有名な心霊スポットになってた。
何十年も前から廃村になったまま、幽霊が出るって有名な…ね。
私が連れてきたのは姉妹じゃなくて。
村 人 達 の 方 だ っ た の ね …… って。
あの二人も、ガラスに写った子も、例の姉妹じゃない。
妹に殺された…村の女の子達なの…。
そう、言ったでしょ。
そういうのは共感してくれる人の所へついて来ちゃうって。
無闇に他の地へ行って涙なんか流したりしたらダメ。
調べても私が滞在した村自体もう存在していなかった、…私はあの時いったいどこに…居たんだろうね。
家や村の周りに貼ってあったお札は…村全体を封じ込める為に他所の誰かが貼ったものだったんだよ。
惨劇により彷徨っている村人達が…あそこにはいっぱい…可哀相な人達が居たんだねぇ。
村やお墓を私掃除してきたけど、もしかしてお札を間違って剥がしちゃったのかも…。
怖いね、怖いよね!!
あ、でも。その後見た夢の方が怖いな。
何故かあの村に居る夢を見たの…。
あの姉妹が幸せそうに暮らしてた。
家にいる村人の誰かが私に見せようとしてたのかな、事件の真実を……。
平和な村の風景、どこか懐かしい時代。
慎ましく生きる姉妹が居たよ。
だけど姉が病に倒れ、妹は必死で看病してた…けれど次第に村全体が二人に冷たくするの。
私はそれをずっと見ていた。その子達の側で。
ヘンな夢、私が幽霊みたいにそこに立ってそこで起こることを見てるの。
お姉さんの病気は治らないものではないけど、薬代が凄くかかかるとお医者さんから言われた。
妹は街へ行くんだけど、お金がなくて…追い返されちゃうのね。
村の人へ頼むんだけど、貧しいからそんな余裕なんかなくて断られちゃうの。
姉妹は絶望して悲しむのよ…。
ある雨の日の夜、…村長さんの家に黒いマントを被った泥棒が入った。
金庫が開けられ、物音に気付いた村長さんはそれを見てしまい泥棒を捕まえようとしたの。
けれど振り向いた泥棒は鎌を持っててそれで村長さんを切りつけたわ…。
その泥棒の顔がランタンに照らされた……それはあの妹の顔だったの!!!
……お姉さんの薬代が欲しかったのかな……。
口の聞けない彼女の言葉はアイコンタクトだけ。それはお姉さんにだけ分かった。
きっとお姉さんは全てを知っていたけれど、妹を生かそうと一人罪を被ったんだね…きっとそこまで愛していたから。
妹の行動は…逆恨み。
お姉さんが居なくなった時から、おかしくなってしまったのかもね。
いいえ、村の人達も勿論悪いわ。話もロクに聞かず犯人に吊るし上げたりなんかして。
でも…結局みんな可哀相なの。
……何が真実かなんて、この目で見ないと分からないことって多いんだね。
雨の日は、憂鬱になるよ。
ピチャ、っていう水音も嫌いだよ…。
家の中で確実に誰かが歩き回ってる音だもの。
今でも、私のお家は村人達の足跡と水溜りで掃除が大変だもの………。
最近気になるのは客室の前の廊下!廊下の床がね…湿気のせいで凹んでるの…小まめに拭くようにはしてるけど。
あそこを歩かないように頼めないかなぁ?村の人達に。
お家直したいけどそんなお金ないものね…。
あ、あともう一個気になったことといえば。
あの姉妹はまだあの村に居るんだろうなってこと………。
何の解決もされてないまま、これからも、ずっと村の隣で彷徨い続けるのかなぁ……。
村人達は、死して尚姉妹に怯え憎みあいながら彷徨うのかしら。
…って凄く心配になったけど。
ああ、そんな顔しないで皆!
大丈夫だよ!!
雨の夜、寝室の窓から外を眺めるとね。
時々大きな斧を持ったずぶ濡れの女の子が見える気がしてたんだ、後ろには似たような感じの女の子がもう一人。
前はもっと遠くに見えていたんだけどね。
そのうち顔が分かるくらいまで見えるようになったよ、だんだんと近づいて来てたのね。
あれが本当の例の姉妹だと思う。
銀髪の凄い美人さんなんだよ。
ついにすぐそこに来た時、私は恐怖心よりやっと会えたねって気持ちになっちゃって。
『大丈夫?辛かったね、苦しかったね…もういいんだよ?恨まなくて。
お姉さん、悲しまないで。妹ちゃん…皆を許して、もう恨み続けるのは疲れるでしょう?お姉さんの為にもいつまでも過去に縛られないで
好きにしていいんだよ、どうかもう幸せになって…!!』
そう心で語りかけた。
言わずには居られなかった、二人の怖いほど落ち窪んだ目から流れる水滴が、泣いているように見えたから。
二人は雨に溶ける様に消えたよ。
良かった!分かってくれたんだね、これで本物の姉妹も救えた!!って嬉しかった。
…知らない土地で、余計なことをしちゃダメって勉強になったわ。
貴方達も、気をつけてね。
もし水で困ったら私に聞いて、良いお掃除の仕方、教えてあげるよ。
…ああ、私の家のお掃除ね。
何でだか最近水溜りに赤い血がまじってるんだ……夜中に悲鳴みたいなのも聞こえるし…何なんだろうね。
そういえば姉妹も私のことをわざわざ探して来てくれたのかなぁ?
惨劇や悲劇はもう起こらないといいね………。
私はそれを願うばかりだよ…。
友達から時間があったら是非にと言われて行ったんだよ。
とても綺麗な景色だから写真とったらいいよ、と。
その村は大きな川が近くにあって、とってものどかで綺麗なの!
観光地ではないから静かな所なんだけど、お祭りの時なんかとっても人で賑わうらしいし、伝統の花飾りを投げる儀式とかもしている歴史ある所なんだってそこの人に聞いた。
村に住む一人暮らしのおばさんのお宅に泊めてもらってね、川魚の伝統料理とか、名産の野菜とか振舞ってもらってとっても楽しかったのよ。
村の人も凄く良くしてくれてねぇ。
景色の綺麗な所教えてくれたり、魚の釣り方教えてくれたり、工芸品見せてくれたりね。
最高に楽しかったの。
ただ…。
ただ一つ気になったことが…。
ある日ベッドで寝て起きたら…布団がぐっしょり濡れてるのよ。
窓が開いて雨が吹き込んだワケでも、雨漏りした様子もないのに!
なんだかおばさんには言えなかったけど。
でも起きると毎朝毎朝、濡れてるの。
部屋の中も、あちこちに小さな水溜りが沢山。
夢だと思ってたけど、夜中にピタ、ピタ、ピタ、ピチョン…って水滴が落ちるような音がするの。
だって部屋の中なのに、水音なんておかしいと思うでしょ?
濡れた音…ゆっくりと近付いては離れるその音がとっても不気味で…。
まるで濡れた誰かが歩き回るみたいな音。
まさか、泥棒?って思って、気味悪いし、四日目くらいに我慢できなくなっておばさんに言った。
そしたらね…
『雨の日だからねぇ…』
って説明された。
その時はそれで納得したんだけど…。
でも!!絶対に雨漏りなんかじゃないよ!
…だって、部屋の中の水溜りが人の足の形をしてるんだもの。くっきりと。
床の部分を見たらね、足の形なの…くっきり指の部分まで見えてるのもあった。
誰かがびしょ濡れのまま部屋中を歩き回った、そんな感じ。
てんてんと続いていく足跡、部屋中に…。
よく見るとその村はどこか不自然な所が多かったの。
川の近くにある記念碑みたいなものとか、…よく見るとお墓だったり…。
ヘンな魔除けのお札みたいなものが家中の戸に貼ってあったり…。
村を囲む柵には何かの警告の言葉が書かれていたり、雨の日は全員で家の掃除をしだしたり…なんかヘンよね?
村の女の子と仲良くなったんだけど、その子に聞いてみたの。
何で墓地じゃなくて川の近くにお墓が二つだけあるの?流されたりしない?家中に貼ってあるお札は何のおまじないなの?って。
その子はお喋り好きだったから色々話してくれた。
お札は昔偉いお坊さんが来て、もれなしのお礼に魔除けとして村に置いてくれたもので、ずっと大切にしてるんだとか。
雨の日は必ずお掃除をする決まりがあって村独特の風習だとかね。
そして川の近くにある不自然なお墓の話……。
とっても悲劇的な話なんだ…。
あの村に昔、…本当に昔のことだよ?ある姉妹がいたらしいの。
姉は誠実で働き者、妹は姉思いの優しい子、二人とも大変美しい姉妹だった。
両親を早くに亡くしたその二人は仲良く仲良く暮らしていたの。
けれども村の一部の人達はその姉妹を疎ましく思っていた。
何故なら二人は大変な美人だったそうで、村中の男の子達が競って求婚したんですって。
そのせいで見向きもされなくなった女の子達が、その姉妹を妬んで嫌っていたみたい。
嫉妬って怖いよね。
ある日村長さんの家に泥棒が入ってお金が盗まれたの。
その泥棒と鉢合わせしたのか、村長さんは殺されてしまって村は大騒ぎになった。
犯人は誰だろう、という話が出た時にその村長の娘さんがこう言った。
『私犯人を知ってるわ。お父様を殺してお金を盗んだのはあの娘達よ!私見たもの!!』
…ってね。
犯人とされたのはその姉妹。
でもきっとそれは村長の娘の勝手な憶測だったの。
村長の娘も他の女の子と一緒で好きな男の子が姉妹ばかり気にかけるのを妬んでのこと。
そして邪魔な者は消してしまえと言わんばかりに、村の女の子達は次々と彼女達が犯人だと言い出した。
姉はその時病気で働けなかったらしく、村の中では厄介者だったみたい。
だから今までの求婚者達も冷たくて、誰も二人を助けようとはしなかったの。
よく考えたら病気のお姉さんがベッドを抜け出して盗みなんかすると思う?
…酷い話だね。
証拠も何もないまま、二人は犯人にされたの。
当時は怖かったね…村の人達がそうと決め付けただけで犯人にされてしまった…。
その村の掟により、二人は殺人と盗みの罪で川へ落とされるという罰を受けることになった。
静かに見える川は実は凄く深くて、流れも速いの。
そして恐ろしいのは手足を縛って川に落とされるということ。
どんなに泳ぎが出来てもそれじゃ助からないよね。
いわゆる死刑の一つだよ。
その日は雨だった。激しい雨の日。
ずぶ濡れの二人は橋の上に連れて行かれ、その間にも周りからは石を投げられた。
悔しかったでしょうね、恐ろしかったでしょうね…。
落とされる直前まで、無実を訴えていた二人だったけど無慈悲な腕が二人の体を橋の上まで持ち上げて…。
その瞬間、姉の方がこう叫んだ。
『待って!正直に言います…犯人は…村長を殺したのは私です、私一人です!!妹は何も知りません。離してあげて!』
愛する妹を助ける為に、お姉さんは嘘をついたの。
どちらも犯人でないのに…可哀相だね。
妹もきっと同じように言いたかったに違いない、姉のことを誰よりもきっと愛していたんでしょうから。
でも妹は姉を庇えなかった。
…それには理由があったの、妹の方はね…生まれつき口が聞けなかったのよ。
昔だから文字は誰でも書けた訳じゃない。
妹の言葉はアイコンタクトだけ、それは姉にしか分からなかった。
伝えたくても、きっと姉以外には分かってもらえなかったのでしょうね。
その姉の言葉で妹の方は許されたけれど、お姉さんの方は川へ落とされ死んでしまった。遺体は流され見つからないまま。
…妹はどんな気持ちだったでしょうね……。
これだけでも悲しくなるね、けれどもこの話には続きがあって……。
…無実の罪で姉を殺された妹は、お姉さんが殺された一週間後忽然と姿を消した。
それから数日たったある雨の日の夜。
村の半鐘を鳴らす人が居たの、それはあの妹だった。
それに気付いた村人は起き出した。
妹は姿を見せた途端走り出した。
逃げるように川へ向かう妹を追うと…村を川から守る堤防が壊れかけてたの。
『大変だ、直さないと!』
これは大変と村の男達は道具を持って川へ向かった。
川は雨で増水していたけれど、なんとか力を合わせて土嚢を積んだり石を積んだりして村を守ろうとした。
けれど次の瞬間、ありえないほど大きな鉄砲水が来て、そこに居た村人達は流されてしまったんだって。
30人くらい居たはずなのに、水がそこに来た後、誰一人…立っては居なかった。
妹はというと…一人高い所からその様子をケタケタ笑って見ていたらしいの…声は出さずにね。
そしてその妹は村へと向かった。家に残っている女の人や子供達の所へ。
雨音に紛れて妹は一つの家に侵入した。
持ち出していた斧で、そこに居た女の子を…。
家中、いえ村中の家を周って彼女は人々をその斧で手にかけた。
生き残った人の話によると雨の中逃げ惑う人達を追いかけて妹は半狂乱になりながら殺し続けたそうよ。大きな斧で。
騒ぎを聞いた隣の村から人が来た時、半分以上の村人が殺されてしまっていたの。
あちこちに死体が転がって、どこの家も水と血の混じった足跡だらけだったというから…想像するだけでも怖いよね。
その妹はその事件以降行方不明になったけど。
噂では川で姉の後を追って自殺したんだとか…。
村人への復讐をしたのね、この話は一部始終を目撃した人…たまたま無事だったんだね。
生き残った中に姉妹を陥れたあの村長の娘さんが居てこれはその人の話らしいの。
隠れてて助かったようだけど、その後ずっと姉妹の幻覚に悩まされて精神を病んでしまい最後には井戸に身を投げて自殺したんだって。
話では、その娘さんは病んでる間ずっと姉妹の名を呼んでいたらしいよ…。
その大量殺人の事件以降、村ではね、雨の日になると必ず女の子が二人、川の近くに現れるんだって。
ずぶ濡れの女の子が二人、仲良く手を繋いで村や川付近をウロウロと歩き回るらしいんだ。
まだ村を憎んでいるのかな?
川の近くのお墓はあの姉妹のもの。
…誰も埋まってはいないんだけど、鎮魂の意味も込めて後々作ったみたい。
不思議なことにどんなに川が氾濫しても、土砂崩れがあっても、あの墓石だけは流されたりしないと不思議がられてた。
村では今でも濡れた足跡が色々な所に現れるんだって。時には家の中も。
村の家中に時々濡れた足跡が残されているんだそうだよ。私が見たのと同じ。
まだ姉妹で彷徨っているなんてとっても可哀相…。
彷徨う二人はなんか若い女の子の居る所によく来るみたいだから、若い子達は雨の日、お守りを抱いて寝るみたい。
村長の娘さんを探しているのかな?一番憎いはずの相手を、自分の手で葬れなかったから?
それとも自分達に冷たくした村の女の子全体を憎んでいたのかなぁ?
早く安らかに眠って欲しいと思うよ。
私その話聞いた時泣いちゃった。
そのお話してくれた子は貴女優しい人ね、泣かせちゃってごめんね、って言ってくれたけど。
私凄く悲しくて切なくて…しばらく動けなかった。
お墓にお花沢山供えたよ、村の周りも綺麗にしたりした。
私……二人を思うと苦しい。
こんな素敵な村にそんな惨劇と悲劇があったなんて…!
村の人達はね、雨の日は家中の掃除をするの。最初に言ったね、この村だけの風習…もう伝統のようなものだよ。
これはずーっと決められた決まりごと。
何故?
だって…家中に水溜りと足跡が出来るんだもの。やらなくちゃ…ね?
しばらく滞在してその不思議な伝統に縛られた村を眺めたよ。
最初は怖かったし嫌だなと思ったけど不思議と、慣れてしまうものだねぇ。
悲しい思い出と共に私は帰宅した。
家へ帰ってからしばらくしてなんだけど、雨の日。
そう、雨の日。
気がつくとね、家中に水溜りが出来てたの…。
夜ベッドから起きようとして足突っ込んじゃった時はすっごい声で叫んだよぅ…。
だっていきなりびちゃっ!って足が冷たいものを踏んだの、嫌でしょ!?怖いよねぇ!?
夜にあの水滴が落ちるような奇妙な音がするし、家中水溜まりだらけになるし私困っちゃった。
今までなんともなかったのに。
雨漏りじゃないの、外は雨だったけど絶対に濡れない場所が濡れてるんだもん。
天井は何もないのに何で床に水溜まりが出来てるの?
私の枕が何でそんなに濡れてるの?
テーブルの下にどうしてそんな大きな水溜りが出来てるの!?
…って物凄く、動揺した。
勿論水道の故障でもない、私が何か零したわけでもないし。
酷いの。
カーペットも布団も椅子もピアノも濡れてるんだよ。
拭いても拭いても…終わらなくて。
雨の日っていったけど、絶対に雨漏りや湿気が原因じゃない。
一階のホールとか、寝室とか、絶対に雨なんか入り込まない場所でも濡れてるんだもの。
足跡に水溜りが沢山。
カーペットはびちゃびちゃ。
濡れた誰かが歩き回ってるとしか思えない。
あの村に行った時から何かがおかしいの…。
私も不本意なんだけど、雨の日は家中の掃除をするのが普通になってた。
私、思ったの。
きっと何らかの事情で私にその二人がついて来ちゃったんだって。
私も女の子だから…憎い仇の娘さんじゃないかと探しに来たのかな。
どんなに探してももう憎い仇はこの世にいないのに。
あまりにもお墓に近付きすぎたから?
それとも私がその村長の娘さんに似ていたのかな?
まあ、そんなことはどうでもいいんだけどね。
でも…私の家に居るのは間違いない。きっとあの村から連れてきちゃったの。
雨の日は憂鬱だった。
家中のお掃除と水滴を綺麗にとる仕事は大変だもの。
ごめんねぇ…。
前に妹が怒ったことがあった、『なんで姉さんが家に来ると、そこらじゅうが濡れるんだ?掃除が大変なのに』って。
お姉ちゃんじゃないのよ…。ごめんね…。
私の後を着いて来てるのね、きっと。
そうゆうのって、共感してくれた人や、思ってくれてる人の所について来ちゃうことがあるんですって。
私があまりにもお墓の前で色々聞いたからからかなあ?
無闇に聞くものじゃないよ、本当に。
でも…もう慣れちゃった。
床は濡れたら拭けばいいし、晴れた日には気にならいわ、私は気にしないようにしてる、これが生活の一部であり、私の雨の日の過ごし方。
少し大変だけど。
寝てると雨漏りしてもいない天井からピチョン、って水滴が顔に落ちてきたりもするのは少し困っちゃうけど…でも慣れたから大丈夫。
あ、夜中にガラス窓をふと見たらね。
私の後ろに女の子の姿がちらっと見えたことがあったの。
髪の長いずぶ濡れの、女の子。
でも酷く恨めしそうな顔で睨んでいたよ、気持ちは痛いほど分かるけどどうしようもないでしょう?
そんな感じでしばらくたったある日。
夜中に目が覚めたの。
その日は何でだかパチ、と冴えちゃって。
雨の音がしたからああ、またお掃除かなーって思って目を開いたら。
ベッドを取り囲むようにして女の子が二人、私の顔を覗き込んでたの。
ずぶ濡れで、髪の長い女の子。
一人は栗色のウェーブのかかった髪、もう一人は金髪のお下げ髪。
仲良く手を繋いでいたよ。
顔色は酷く悪くてね、髪の毛の間からこっちを見てる目は見開いたまま瞬きしていない。
不気味で恐ろしい顔…。
生臭いような臭いまで漂ってて…。
ポタポタ二人の髪から垂れる水滴が私の顔にまでかかって怖かったし冷たかった。
え、何!?って思ったけど。
『ごめんね助けてあげられなくて。
でも、分かって!いつまでもこの世に居たって何にもならないんだよ。
貴方達の気持ちは分かる、憎いし悔しかったのよね?悲しかったのよね?
お願い、許してあげて?
早く次の世界へ行ったほうがいいよ、そこは寒いでしょう?悲しいでしょう?
天国へ行ったらきっと楽しいよ、生まれ変わったらもっと楽しいよ…恨むより許してあげて!』
私はこう心の中で呼びかけたの。
すると二人は顔を見合わせた。
私、その時も泣いちゃった。
怖かったって言うより、彷徨い続けるのが可哀相になって。
そしてしばらくしたら、少しだけ優しい表情になってね。私の思い込みかもだけど。
二人はスッと消えてくれたの。
二人が居た後には水溜りが残っていたけど、姿は跡形もなく消えてた。
悲しい悲劇は、繰り返してはいけないよね。
どうか来世では、幸せになってるといいなぁ…。
ん?
今でも雨の日にはお掃除するよ?
え、だって…あちこち水溜りだらけなんだもの。
……え?うん。その栗毛と金髪お下げの二人はもう居ないよ?あれ以来見かけないし。
でも…。
前に言ったでしょ、ガラス窓に写った女の子。
あれ、よく考えたら私の見た二人の女の子のどちらでもなかったんだよ、私すっかり忘れてて…えへ。
そこでふと勘違いに気がついたの。
今思えば水溜りも足跡も、妙に多かった気がするし、村に張ってあったお札も、あれって魔除けじゃなくて中にある何かを封じ込める意味合いの札だったようだし…。
何よりインターネットで調べたらそこは有名な心霊スポットになってた。
何十年も前から廃村になったまま、幽霊が出るって有名な…ね。
私が連れてきたのは姉妹じゃなくて。
村 人 達 の 方 だ っ た の ね …… って。
あの二人も、ガラスに写った子も、例の姉妹じゃない。
妹に殺された…村の女の子達なの…。
そう、言ったでしょ。
そういうのは共感してくれる人の所へついて来ちゃうって。
無闇に他の地へ行って涙なんか流したりしたらダメ。
調べても私が滞在した村自体もう存在していなかった、…私はあの時いったいどこに…居たんだろうね。
家や村の周りに貼ってあったお札は…村全体を封じ込める為に他所の誰かが貼ったものだったんだよ。
惨劇により彷徨っている村人達が…あそこにはいっぱい…可哀相な人達が居たんだねぇ。
村やお墓を私掃除してきたけど、もしかしてお札を間違って剥がしちゃったのかも…。
怖いね、怖いよね!!
あ、でも。その後見た夢の方が怖いな。
何故かあの村に居る夢を見たの…。
あの姉妹が幸せそうに暮らしてた。
家にいる村人の誰かが私に見せようとしてたのかな、事件の真実を……。
平和な村の風景、どこか懐かしい時代。
慎ましく生きる姉妹が居たよ。
だけど姉が病に倒れ、妹は必死で看病してた…けれど次第に村全体が二人に冷たくするの。
私はそれをずっと見ていた。その子達の側で。
ヘンな夢、私が幽霊みたいにそこに立ってそこで起こることを見てるの。
お姉さんの病気は治らないものではないけど、薬代が凄くかかかるとお医者さんから言われた。
妹は街へ行くんだけど、お金がなくて…追い返されちゃうのね。
村の人へ頼むんだけど、貧しいからそんな余裕なんかなくて断られちゃうの。
姉妹は絶望して悲しむのよ…。
ある雨の日の夜、…村長さんの家に黒いマントを被った泥棒が入った。
金庫が開けられ、物音に気付いた村長さんはそれを見てしまい泥棒を捕まえようとしたの。
けれど振り向いた泥棒は鎌を持っててそれで村長さんを切りつけたわ…。
その泥棒の顔がランタンに照らされた……それはあの妹の顔だったの!!!
……お姉さんの薬代が欲しかったのかな……。
口の聞けない彼女の言葉はアイコンタクトだけ。それはお姉さんにだけ分かった。
きっとお姉さんは全てを知っていたけれど、妹を生かそうと一人罪を被ったんだね…きっとそこまで愛していたから。
妹の行動は…逆恨み。
お姉さんが居なくなった時から、おかしくなってしまったのかもね。
いいえ、村の人達も勿論悪いわ。話もロクに聞かず犯人に吊るし上げたりなんかして。
でも…結局みんな可哀相なの。
……何が真実かなんて、この目で見ないと分からないことって多いんだね。
雨の日は、憂鬱になるよ。
ピチャ、っていう水音も嫌いだよ…。
家の中で確実に誰かが歩き回ってる音だもの。
今でも、私のお家は村人達の足跡と水溜りで掃除が大変だもの………。
最近気になるのは客室の前の廊下!廊下の床がね…湿気のせいで凹んでるの…小まめに拭くようにはしてるけど。
あそこを歩かないように頼めないかなぁ?村の人達に。
お家直したいけどそんなお金ないものね…。
あ、あともう一個気になったことといえば。
あの姉妹はまだあの村に居るんだろうなってこと………。
何の解決もされてないまま、これからも、ずっと村の隣で彷徨い続けるのかなぁ……。
村人達は、死して尚姉妹に怯え憎みあいながら彷徨うのかしら。
…って凄く心配になったけど。
ああ、そんな顔しないで皆!
大丈夫だよ!!
雨の夜、寝室の窓から外を眺めるとね。
時々大きな斧を持ったずぶ濡れの女の子が見える気がしてたんだ、後ろには似たような感じの女の子がもう一人。
前はもっと遠くに見えていたんだけどね。
そのうち顔が分かるくらいまで見えるようになったよ、だんだんと近づいて来てたのね。
あれが本当の例の姉妹だと思う。
銀髪の凄い美人さんなんだよ。
ついにすぐそこに来た時、私は恐怖心よりやっと会えたねって気持ちになっちゃって。
『大丈夫?辛かったね、苦しかったね…もういいんだよ?恨まなくて。
お姉さん、悲しまないで。妹ちゃん…皆を許して、もう恨み続けるのは疲れるでしょう?お姉さんの為にもいつまでも過去に縛られないで
好きにしていいんだよ、どうかもう幸せになって…!!』
そう心で語りかけた。
言わずには居られなかった、二人の怖いほど落ち窪んだ目から流れる水滴が、泣いているように見えたから。
二人は雨に溶ける様に消えたよ。
良かった!分かってくれたんだね、これで本物の姉妹も救えた!!って嬉しかった。
…知らない土地で、余計なことをしちゃダメって勉強になったわ。
貴方達も、気をつけてね。
もし水で困ったら私に聞いて、良いお掃除の仕方、教えてあげるよ。
…ああ、私の家のお掃除ね。
何でだか最近水溜りに赤い血がまじってるんだ……夜中に悲鳴みたいなのも聞こえるし…何なんだろうね。
そういえば姉妹も私のことをわざわざ探して来てくれたのかなぁ?
惨劇や悲劇はもう起こらないといいね………。
私はそれを願うばかりだよ…。
怖い名無しさん、投稿ありがとうございました
【百物語 第七十三話】シワ
ある夜、通り魔が女を殺した。
女のそぶりがよほど気に入らなかった通り魔の男は、最後には手近なロープで女を木に縛り付けると、元々持っていたナイフを捨て、爪でいたぶって殺した。
翌朝、野次馬に紛れて男がその場所に行くと、なぜか、苦悶の表情そのままの女の顔がそこにあった。
血の染みにまみれて、木のシワとして。
男は誰かの言葉を思い出す。
木の下で人が死ぬと、血とともに魂を、木が吸い上げると。
女の顔をしたシワを見て、惨めでありいい気味だと、男は心の中でせせら笑った。
せいぜい死んだ後も苦しめ。手も足もなしに、復讐出来まい。
俺を呪い殺せるものなら、呪ってみろ。
男は帰宅すると、昨晩使ったナイフを取り出した。
あの顔のサビが浮き上がっていれば愉快だと思ったが、自分の目をそこに映しても、何の痕もない。
ちょっぴりつまらない気持ちでいると、男は突然ナイフを落とした。
手に力が入らない。
というより、意志に反して独りでに力が入る。
手が、勝手に動き男の首を絞めた。
一体どうなっているのか。
男は血相変えて洗面所に走り鏡を見るが、何もおかしな物は見当たらない。
やはり、自分の腕が自分の首を絞めていた。
ふと違和感に気付くと、爪に不自然なシワ。
それはよく見れば、木のシワとして浮かび上がった女の顔と瓜二つだった。
男には心当たりがあった。
昨晩、あの女を爪でいたぶった事を男はよく覚えていた。
女の血を吸い上げたのは、あの木だけでは無かった…
女の顔がゆっくり、爪ごと男の首に沈んでいく。
見えなくなる直前、一度だけ口を開いた。
「つかまえた」
血の染みにまみれて、木のシワとして。
男は誰かの言葉を思い出す。
木の下で人が死ぬと、血とともに魂を、木が吸い上げると。
女の顔をしたシワを見て、惨めでありいい気味だと、男は心の中でせせら笑った。
せいぜい死んだ後も苦しめ。手も足もなしに、復讐出来まい。
俺を呪い殺せるものなら、呪ってみろ。
男は帰宅すると、昨晩使ったナイフを取り出した。
あの顔のサビが浮き上がっていれば愉快だと思ったが、自分の目をそこに映しても、何の痕もない。
ちょっぴりつまらない気持ちでいると、男は突然ナイフを落とした。
手に力が入らない。
というより、意志に反して独りでに力が入る。
手が、勝手に動き男の首を絞めた。
一体どうなっているのか。
男は血相変えて洗面所に走り鏡を見るが、何もおかしな物は見当たらない。
やはり、自分の腕が自分の首を絞めていた。
ふと違和感に気付くと、爪に不自然なシワ。
それはよく見れば、木のシワとして浮かび上がった女の顔と瓜二つだった。
男には心当たりがあった。
昨晩、あの女を爪でいたぶった事を男はよく覚えていた。
女の血を吸い上げたのは、あの木だけでは無かった…
女の顔がゆっくり、爪ごと男の首に沈んでいく。
見えなくなる直前、一度だけ口を開いた。
「つかまえた」
怖い名無しさん、投稿ありがとうございました
【百物語 第七十二話】人形を埋めたら
これは私の体験談です。
私は小さい頃、悪ふざけで裏庭に可愛がっていた従姉のお下がりのリカちゃん人形を埋めてしまったことがあります。
数日後、突然目が腫れて開けられなくなりました。病院で結膜炎と診断され悩まされました。そんな私を見た母が『もしかして』と思ったそうで人形を掘り起こしました。すると今まで酷かった病状がおさまり、嘘のように治ったのです。
裏庭で遊んでいる時に隣接している工場の化学物質か薬品が目に入ったのではないかという推測がされましたが、母は「リカちゃんが怒ったんだよ!人形には魂が宿るって言うし…」と言っていました。母はそういった類いには少し詳しく、存在を信じるタイプの人で、実際今までも裏庭で遊んだことはありましたが病気等になったことなど一度もありませんでした。なので私もずっとそうなのだと思っています。
でも何故あんなことをしてしまったのか、あの人形はどこにあるのか今でもよくわからないままです。
裏庭で遊んでいる時に隣接している工場の化学物質か薬品が目に入ったのではないかという推測がされましたが、母は「リカちゃんが怒ったんだよ!人形には魂が宿るって言うし…」と言っていました。母はそういった類いには少し詳しく、存在を信じるタイプの人で、実際今までも裏庭で遊んだことはありましたが病気等になったことなど一度もありませんでした。なので私もずっとそうなのだと思っています。
でも何故あんなことをしてしまったのか、あの人形はどこにあるのか今でもよくわからないままです。
怖いの苦手っ子さん、投稿ありがとうございました
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