貧困の国 : てら…こわす。~怖い話まとめちゃんねる~
怖い話まとめ☆てらこわす

貧困の国


私が今から話すことは、所謂「オカルト」といった性質のものではない。
しかし、私にとっては、本当に洒落にならない経験だった。
だから、かなりの長文ではあるが、ここに書き込むことにする。
霊の類の話を期待している向きには申し訳ないが、しばらくの間、我慢して欲しい。

私は昨年まで外資系の企業に勤めていた。
ある時、私に、C国へ出向しないか、という打診があった。
会社はC国に工場を所有しており、そこの技術者に日本国内の工場で採用されている
システムを修得させるのが目的の長期出向だった。
長期とは言っても、現地スタッフによる運用が可能となるまでの期間限定の出向だったし、現地での待遇も、帰ってきてからのポストも非常に良い条件だった。
私は、少し考えた上で承諾した。

C国の工場で引継を終えた夜、私は前任者と食事を共にした。
前任者(仮にT氏としておく)は赴任してから半年後に、
健康上の理由から日本への帰国を希望していた。
目の前のT氏は、確かに頬がこけていて顔色が悪く、
心身共に疲れ切っているような印象だった。
T氏は、現地での生活について様々なアドバイスをしてくれたのだが、中でも
「倉庫の裏にある丘には決して近づくな。」というようなことを、ことさら強調した。
私がその理由を尋ねても、T氏は口を噤んだままだった。

やがてT氏は帰国し、私のC国での生活が始まった。

C国は、最近まで激しい内戦が続き、それが国民の生活に大きな影を落としていた。
工場の周辺は農村地帯だったので、破壊行為の跡などはあまり見られなかったが、
ゲリラによる虐殺や略奪は、このあたりの集落にも及んでいるようだった。
働き手や財産を内戦で失った家庭などは、
日々の生活すらも全く困窮している有様だった。
そんな家の子供は、工場へと続く道端で半ば物乞いのような事をさせられていた。
また、工場に雇われている労働者には、夫を亡くした女が優先的に採用されており、
彼女らの子供は、母親が仕事を終えるまで、工場の近くで遊んでいる。
工場の周辺には、そんな訳ありの子供が大勢集まっていた。
私は、いつの頃からか、そんな子供達と仲良くなり、
昼休みや仕事がヒマな時などは、彼らの遊び相手になることもしばしばだった。

ある昼休みのことだった。
いつも工場の周りで遊んでいるKという子供が、
面白い所があるから一緒に行ってみよう、と私を誘った。
すぐ近くだから、というK君の言葉を信じて、
私は、K君と彼の妹のSちゃんと一緒に、工場の脇の林に向かって歩きだした。
しばらく木立の中を歩いていくと、急に視界が開けて、広い空き地のような所に出た。
K君とSちゃんは、そこでサッカーのようなことをして遊び始めた。
私も混ざってみたけれど、K君のボール捌きはなかなかのもので、
本気にならなければ、K君のボールを奪うことは出来なかった。
そうこうするうちに昼休みも終わり、私は職場へ戻った。

何日かして、K君とSちゃんと私は、やはりあの空き地へやって来た。
その日は、私は木陰で、ぼんやりとK君とSちゃんの遊ぶ姿を眺めていた。
ふと視線を工場の方に向けると、少し離れたところに倉庫が見えた。
そこで、以前T氏が言っていたことを思い出した。
「倉庫の裏にある丘には決して近づくな。」
そういえば、ここの地形は少し盛り上がっていて、丘のような感じがする…

私は近くにいたK君を呼びかけ、もう帰ろうと誘った。
Sちゃんを探すと、反対側の木立の辺りに立って何かをジッと見つめているようだった。
見ると、黄色いオモチャのようなモノが落ちている。
それを拾おうとして、Sちゃんはしゃがみ込んだ。
私は、Sちゃんの方へ足を踏み出し、帰るよ、と呼びかけようとした。
すると、K君が袖を掴んで軽く引っ張った。
私は思わずK君の方を向いた。

ドンッ!

突然、腹に響くような大きな音がして、私はSちゃんの方を振り向いた。
Sちゃんは地面に倒れていた。
私は急いで駆け寄ったが、ダメだった。
足や手があり得ない方向に曲がっていて、体の下から血が溢れている。
しばらく呆然と立ち竦んでいた。
が、不意に、Sちゃんの拾おうとしていた黄色いモノが地雷であったことに気付いた。

もちろん、対人地雷のことはC国に来る前から聞いていた。
子供が興味を持つような色や形の地雷があることも、
世界各国で、それらの犠牲となり、手足を失った子供の写真も見たことがある。
しかし、私には実感がなかった。
情けない話だが、Sちゃんの、無惨な遺体を見るまでは、
私の目の前で、幼い子供が犠牲になるなど、考えてもみなかった。
振り返ると、K君が顔をクシャクシャにして泣いていた。

Sちゃんが死んだ丘は、法的には工場の敷地だった。
実際には、地雷の危険性があったということで、立ち入り禁止となってた。
しかし、そこを囲っていた有刺鉄線はとっくに盗まれていた、ということだった。

私はSちゃんの家族に会って謝ろうと思ったが、
工場長をはじめ、現地のスタッフは皆、反対した。
「あれは事故だ。断じてあなたのせいではない。」
皆が、そう言って私を慰めてくれた。
後に工場長から、Sちゃんの家族には会社から見舞金が渡された、と聞かされた。

私はしばらくの間、自宅で休養した。
工場に戻っても、以前のように子供と遊ぶ気にはならなかった。
K君と会うことも、二度となかった。

やがて月日がたち、当初の目的を果たした私は日本へ帰ることになった。
帰国した私は、真っ先にT氏に連絡を取り、会う約束を取り付けた。

T氏は私を見るなり、何かに気付いたようで、深いため息をついて言った。
「ご愁傷様だな。」
私は少し間をおいてT氏に尋ねた。
「あなたも、あそこで同じような体験をしたんですね。」
「ああ、私の時は男の子だったよ。赤い地雷だった。」
「…その後は?」
「たぶん君と同じだ。一月もすると別の子供が誘いに来た。
 行ってみると、有刺鉄線など、どこにもなかった。」
T氏はひどく悲しそうな目をしていた。
「それからは、ひっきりなしだ。兄弟連れで、何人も何人も…」

Sちゃんの家族の手に渡った見舞金。
我々にとっては、はした金程度のものでも、
C国では家族を数年養えるだけの価値がある。
おまけに養う口は一つ減るのだ。

しばらくの間、T氏と私は子供達の運命を呪うように、黙って俯いていた。




【引用元:
洒落にならないくらい恐い話を集めてみない?part26

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この記事へのコメント

  1. 怖い名無しさん 2014年01月10日 21:43:11

    人間てホントにコワい
  2. 怖い名無しさん 2014年01月11日 05:23:24

    日本もこうなるぞ
  3. 怖い名無しさん 2014年01月11日 13:31:25

    悲しい
  4. 怖い名無しさん 2014年01月11日 14:18:21

    弱い者を守るのは自分を守ること
  5. 名無しの怖い話 2014年01月11日 21:43:46

    この系の話って、危険に対して具体的に注意しないのな。
  6. 怖い名無しさん 2014年01月15日 10:15:46

    なんでTは行く前の主人公に何も言わないの?
    地雷があることを内緒にしとく意味がわからん
  7. 怖い名無しさん 2014年03月11日 03:11:17

    語り手に何も言っていない、というのは違う。
    言葉は足りないが、「近づくな」と警告してる。それもかなり強く。
    地雷があって危ない、ということを先に言って子供の誘いを断るようなことをすれば、子供の口減らしをしつつ数年家族を養える金も(子供の家族に)入らなくなる。
    恨みの矛先が向けば、彼の身が危ない。
    と思えば、彼本人が自ら近づかないように注意を促す程度しか出来なかったんじゃないかな。
    子供の命は見捨てて良いのか、って言うのはナンセンスな。その子の家族だって、裕福ならそんなことは最初からしないだろうさ。子供に地雷の危険性を教えることだって、難しいことじゃないだろうし。
  8. 怖い名無しさん 2014年04月09日 13:57:30

    それはわかるんだけど本人が巻き込まれる可能性あるのに黙ってるのはなぁ
  9. 怖い名無しさん 2014年06月14日 16:47:46

    本人が吹っ飛んだ場合は、前任者は行くなと言っていたのに踏み入ったんだから自己責任でしょ。
    ようは、その丘で何があっても、書き込んだ奴が悪いってなるわけでだな
  10. 名無しさん@ニュース2ch 2014年07月23日 21:00:51

    何があるか分かれば子供を止めるかもしれない。
    だが、それでは向こうが困るし、教えた事で問題もでてくるかもしれない。

    そして事情を聞いた場合
    知ってて見捨てられる人ならいいが、そうでもないなら
    どうしたって「自分が見殺しにした」って認識するだろ。

    疑問に思う人は考えてほしい、市ぬのが分かってる子供を
    黙って見送る自信はあるかい?
  11. 怖い名無しさん 2015年01月31日 15:26:20

    その正義感と道徳心は真っ当なものだと思うよ。こういう事を言える人が日本には多くいて誇らしくも思う。

    それでも貧困の前じゃ倫理が吹っ飛ぶ人達も世界にはいて、子供が地雷のことを知らされて帰ってきたら工場に怒りが向かうって可能性もあるんだよ。くそみたいな話だけどね。
  12. 怖い名無しさん 2015年02月23日 12:53:08

    うーん・・・
    見えるような仕掛けがある地雷なら、とっくに除去されてるのでは?
    どこの国か分からないけど。外国企業が工場を持てるような国なら地雷除去の国際協力は受けてるのでは 除去しきれない例は多いが、この場合・・・?
    それと地雷原かどうかも分からなくなってる訳でなく、危ない場所と知れてるなら、真っ先に現地民が近寄らないように注意を行き渡らせてると思う
    例え囲いが無くたってなぁ
    この話の、地雷の悲惨さを伝える意味を減じるものではないけれど。
  13. 怖い名無しさん 2015年02月24日 16:08:52

    ※12
    >危ない場所と知れてるなら、真っ先に現地民が近寄らないように注意を行き渡らせてると思う

    現地の人達は、その丘が危ない場所だと知っているんだよ
    知っているからこそ、子供達があそこで遊ぶようになる
    もう1度、最後のあたりをきちんと読み返してみな
  14. 怖い名無しさん 2015年02月27日 20:10:10

    養えないなら最初から産むなよって思うが、
    この国の場合、ゲリラに犯されたりとかあるのかな?
    もしくはそれまでそこそこ裕福だったが内戦で財産を失ったとか
  15. 怖い名無しさん 2015年08月06日 12:57:31

    貧困地域では働き手が欲しいから子供をたくさん産むよ、でも貧困だから育てるのも大変
  16. 怖い名無しさん 2016年02月27日 01:06:20

    怖いっつうか悲しい話ですのぅ
  17. サタン 2017年10月12日 15:28:14

    話をわかってない奴はちゃんと最後の文章読めよ・・・・


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