【百物語 第五十七話】栄不衰 : てら…こわす。~怖い話まとめちゃんねる~
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【百物語 第五十七話】栄不衰


大学時代の友人Aは某市の史料館に勤めています。地域の旧家や公民館に所蔵されている古文書などを引き取って、あれこれ整理するのが仕事だそうです。
先日、Aと飲みました。
少し特殊な業界にいるAの話はいつ聞いても面白く、「名前は明かせないが…」と、一応は守秘義務を守りつつ、あれこれと裏話を聞かせてくれます。私はそれが楽しみで、数ヶ月に一度はAと酒を酌み交わしているのです。
これは、その時に聞いた話です。

この前、Aはさる旧家(B家としておきます)から大量に古文書を引き取ったそうです。
昔からその地域では勢いのあったB家ですが、ここ最近は不運続き。当主がベタ惚れだった後妻は若いホストと駆け落ちし、二人いた子供はいずれも家出して音信不通。家業であった販売業も大手スーパーの攻勢で倒産してしまいました。当主本人も持病が悪化して日常生活すらままならなくなるという有りさま。
八方塞がりの当主は、仕方なく土地・財産を処分して、近々老人ホームに入所することになったそうです。B家に所蔵されていた古文書が史料館におさめられることになったのは、それが原因でした。

「それは気の毒だなぁ…」
と言う私にAは首を振り、
「さてね。ろくでもない野郎だったからな。喜んでいる人の方が多いんじゃないかな」
と言います。
古くからこの地域では顔役として幅を効かせてきたB家、その歴代の当主の中でも、今の当主は特に押しの強い性格であったそうです。地元の政財界に対して強い発言力を持っていて、逆らう者には容赦しません。夜逃げするまで追いつめるという徹底ぶりだったそうです。それだけでも充分に悪質ですが、財力にまかせて骨董品を買いあさり、それを来る人来る人に見せびらかす。もちろんB家の由緒も延々自慢し続ける。直接的な被害を受けていないにせよ、その下品極まりない顕示欲に眉をひそめる人は多かったとのこと。そんな当主が落ちぶれたのですから、溜飲の下がった人も多かったのでしょうね。もしかすると、Aもどこかで嫌な目に遭わされたのかもしれません。
「罰が当たったってやつだろうな」
Aはちびりちびりと酒を飲みながら言いました。
「罰?まぁ、そうなのかも知れないな」
私がそう応じると、Aは大きく頷いて、
「間違いなく罰が当たったんだよ。天罰だな、天罰」
と言いました。しかし、すぐに「待てよ…?」と思案顔になり、
「天罰というよりも神罰か?いや、そもそも罰じゃないのかも知れないな」
とつぶやいています。Aはもう酔ったのでしょうか。いまいち要領を得ません。
怪訝な顔をする私に気付いたAは、メモ帳に何かを書いて、私に見せてきました。
『栄不衰』
「何だこれ?エイフスイ…じゃないな。栄えて衰えず?」
「あいつの屋敷へ古文書を引き取りに行った時、見つけたんだ。玄関にご大層な扁額がかけられていてさ、これはその扁額に彫ってあった文言だよ」
「へぇ…。扁額とはまた」
「まぁ、あいつの願いをそのまま文字にしたってところだろうな」
「なるほど」
「で、だ。その扁額、何で作ってあると思う?」
「扁額だから…、そりゃ、木か紙だろ?」
「うん、まぁ、その通りなんだが。…あいつの扁額は、御神木で作ったんだよ」
「御神木で?」
「神社の境内に祀られている御神木が切られる事件、聞いたことないか?」
「ああ、いつだったかネットで見たよ。多発しているらしいね」
「あの野郎、大金積んで、ブローカーにどこかの御神木を持ってこさせたんだよ。公然の秘密さ」
「へぇ…」
「で、あれで芸術家ぶるところもあって、自分でこの3文字を彫って、来る人来る人に自慢していたわけだな」
「悪趣味だなぁ…」
「現物を見た限りでは、御神木が可哀想になる様なひどい出来だったけどな」
「はは、御神木に不届きな振る舞いをしたから、神罰が下ったってわけか」
「ところが、だ」
Aはにやりと笑います。
ところが?何が?再び怪訝な顔をする私にAは言いました。
「お前、さっきこれをどう読んだ?」
「え?いや、だから…、栄えて衰えず、だろ?」
「ああ、あいつもそのつもりで彫ったんだろうけどな」
Aはメモ帳の3文字の下に、右から左に矢印を引きました。
「扁額の字なんてものは、普通、右から左に読むんだよ。昔の日本じゃ当たり前だったけどな。芸術家ぶって、学のあるところを見せようとして、野郎、こんな初歩的な間違いをやらかしてしまったのさ」
右から左に読む…。
とすると、『栄不衰』は…。
衰えて栄えず!?
「な?ご当主様の願いを神様はちゃんと聞いて下さったわけだ」
Aは面白そうに笑いました。

合理的に考えれば、長年にわたる当主のやりたい放題が、B家の没落を招いたのでしょう。
しかし、御神木で作られた扁額が、B家の没落に無関係であったとも思えないのです。
神罰が下ったのか。それとも神様が当主の「願い」を聞き届けたのか。
どうなんでしょうね?



伊勢守さん、投稿ありがとうございました

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この記事へのコメント

  1. 怖い名無しさん 2014年09月01日 20:16:43

    実に面白かった、
    Aさんの
    他のお話もきっと面白いのでしょうね。
  2. メロはぁん!我が生涯に以下省略 2014年09月01日 20:35:07

    えっと、、なんだっけ?
  3. 隙間風 2014年09月02日 13:18:24

    個人的には神罰として当主のコトバを叶えたのかなと思います
    周囲の人々の怨みとともに…


    そしてこの話好みです
  4. チーム大谷 2014年09月02日 17:23:17

    恨みなんて買うもんじゃないな
  5. 暴れ八着 2014年09月02日 19:18:19

    たとえ貧しくても下品な生き様はしたくないな。
  6. ニルンルート 2014年09月03日 23:06:00

    明治20年発令の特殊宗教法人法中で、寺社仏閣でも左→右に統一されてるので、「栄えて衰えず」で合ってると思うのですが…
  7. 愛してる☆コミューン 2014年09月03日 23:08:06

    読み下しは、「栄えず衰える」ですよね?細かいこと失礼しやした~!
  8. 刈草 2014年09月04日 23:03:35

    この話、良く練られててめちゃ面白い!
  9. 俺の名前を言ってみろ 2014年09月05日 22:27:32

    小松左京の短編を思い出す、、、
    センスのいい話でとても面白いです。
  10. あき 2014年09月20日 18:03:31

    それが没落の理由なら
    なんともお間抜けな当主様だ

    欲に目が眩みまともに判断する目も失くしてしまったのでしょうか…
    いくらお金で手に入るからって
    罰当たりなやり方で入手した御神木を手元に置き
    更にそれに傷つけるなんて
    ある意味胆の据わった人だったんだろうね…
    それともちょっと抜けた人故に
    畏れの気持ちすら持ち合わせてなかったか…

    読み応えのあるお話ですね 
  11. 天才❗怪談伯爵様‼ 美男子❗怪談伯爵あらわる 2014年09月20日 18:11:18

    われ❗天才なり❗われ!怪談界のカリスマ 怪談伯爵様だあー❗頭が高い💢
  12. 親愛なる怪談伯爵様に捧ぐ 怪談伯爵様の忠実なる部下一同より 2014年09月20日 18:19:28

    かぁーい🎵かい🎵かい🎵かぁーい🎵かい🎵かい🎵愉快痛快🎵怪談公は🎵怪談ランドの伯爵だーい‼
  13. 相方 まっつん 2014年09月20日 18:23:59

    おれはぁぁぁぁ💢💢💢💢💢💢💢💢💢💢ハマだああああ💢💢💢🎵💢💢🎵🎵💢🎵🎵🎵🎵👀👀💢💢💢💢😱😱😱😱😱😱👀👀⚾❤❤👿👻👻😼😼😼😼😼😼😼😼❔❤☎❕👾❤💖👿😱👀⚾⤴🐛❤😱⚾❤🐛🎤👿😱⚾👾❔💖⚾❤👻👻🎵❔😼❔😼👻👻👻👻👻😼😼😼👳👳😼😼😼😼
  14. 怖い名無しさん 2014年11月16日 00:08:24

    こりゃまたキツい話。
    神罰ったって、低級神が下す罰な訳だろ。低級神に付け狙われた男って事だな。
  15. 怖い名無しさん 2015年06月09日 20:57:57

    読ませる文章で面白かった。
    俺もこの話は好みだ。
  16. 怖い名無しさん 2015年09月08日 22:01:36

    良い短編
  17. 怖い名無しさん 2015年12月20日 04:16:38

    神様があえて当主の間違いを誘った・・・という風にも解釈できますね。

    神様だけじゃなかったかもしれませんけど。


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