【祟られ屋シリーズ第13話】 鏡 : てら…こわす。~怖い話まとめちゃんねる~
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【祟られ屋シリーズ第13話】 鏡

前回の話を読む

季節が冬に変わろうとしていた頃だった。

俺は、オカマのきょうこママに呼び出された。
「ちょっと、相談したい事がある」と言うことだった。
久々に会ったきょうこママは巨大化していた・・・ま、マツコ・デラックス?
「久しぶり。相談って、何よ?ダイエットの話なら無理だぜ・・・
 もう、手遅れだよwww」

「そんなんじゃないわよ、失礼な!真面目な話だから、ちゃんと聞きなさい」
ママの目は真剣だった。

「アンタ、ほのかちゃんの事、覚えてる?」

「ああ、覚えてるよ。大分前に店を辞めたはずだけど、元気にしてるの?」


ほのかとは、アリサと出会う前、店の子のガードを請負った折に知り合った。
初めて会った頃の彼女は、ホルモン注射を開始したばかりの段階だった。
元々華奢な体格で、顔の造りも女性的だったためか、
女装すると普通の女にしか見えなかった。
ママやガードしていた子の話では「あの子は続かないかもね」という事だったが、
勤めは長く続いた。

アリサと共に何度か遊びに行った事もあった。
あまり、自分の事は話したがらない子だったが、
『神様のミステイク』に苦しんだ者同志だったからだろうか、
アリサに良く懐いていた。
アリサが亡くなってから会った事は無かったが、
恋人が出来て店を辞めたと聞き及んでいた。

「あの子がどうかしたのかい?」

「この間ね、偶然会った店の子がほのかちゃんを連れてきたんだけどね・・・
 あの子、危ないのよ・・・放って置くと多分自殺しちゃう。
 アタシはね、何人もそんな子を見てきたから判るのよ」

「そいつは穏やかじゃねえな。それで、俺にどうしろと?」

「あの子の所に顔を出してやって欲しいのよ。
 アタシや店の子達じゃ会ってくれないから」

「ママ達に会わないのに、俺が行ったからって駄目だろ?」

「そうかもね。・・・・・・でも、あの子にとって、アンタ達は特別だから」

「え?俺達?」

「アンタとアリサちゃんよ。あの子だけじゃなく、店の子達にとって、
 アンタ達はある意味理想だったのよ・・・・・・
 それが、あんな事になって、みんな悲しんでいるわ・・・・・・
 アンタが思っている以上にね」

「そうかい・・・・・・役には立てないかもしれないけど、行くだけは行ってみるよ」

俺は、ほのかの部屋を何度か訪れたが、彼女がドアを開けることは無かった。
郵便受けにメッセージだけを残して帰る事が何度か続いた。


その日も、メモだけ残して帰ろうとしていた。
だが、郵便受けに封筒を投函すると、部屋の中から物音がした。
彼女は部屋に居るようだ。
俺は、インターホンを連打しながらデカイ声で言った。

「おい、ほのか居るんだろ?
早くドアを開けろ!開けないとウンコするぞ!」

鉄製のドアに何かが当たる音がしたが、扉は開かない。
スコープからこちらを見ている事を確信した俺は、
壁際まで下がってベルトを外し、後ろを向いてしゃがみ込んだ。
「ちょ、ちょっと、止めてよ!」と言う声と共にドアが開いた。

「よお、久しぶり!」

「・・・・・・アンタ、馬鹿?恥ずかしいから中に入ってよ!」

俺が部屋に入ると、ほのかはドアを強く閉めた。
ふぅ~っとため息をつくと、呆れた様子で言った。
「兄さん馬鹿でしょう?もう、恥ずかしくって外を歩けないわ!何考えてるのよ?」

「いや、居留守を使うお前が悪いでしょ?
 俺はちゃんと、次に来る時間も残して帰っていたんだしwww」

「それで、何よ?」

「いや、手紙にも書いたけどさ、ママや店のみんなも心配してるし、
 俺だって心配だったからさ」

「そう?」

「とりあえず、お前の顔も見たし、今日は帰るよ」

そう言って、ドアを開けようとした俺の腕を彼女が引っ張った。
「久しぶりに会ったんだから、夕食ぐらい食べて行きなさいよ」

俺の訪問に合わせて作っていたのだろうか、
テーブルの上には結構な品数の料理が並べられた。

俺達は、無言で食事を続けた。
「美味かったよ。やっぱ、独り者に女の子の手料理はグッと来るものがあるね。
 やべぇ、惚れちまいそうだよ」

「アリサ姉さんの直伝だからね」

「・・・今日は遅いから、また来るわ。
 今度はこんなに凝らなくても良いぞ。・・・そうだな、カレーでいいや!」

「ばか」

とりあえず、ほのかが笑みを見せたのを由として、俺は彼女の部屋を後にした。
沈んだ様子だったが、ほのかからママの言っていた『死相』は見て取れなかった。
だが、形容し難い、妙な空気は確かにあった。
俺は、暫くほのかの部屋に通って、彼女の様子を見る事にした。


何度も足を運んでいるうちに、ほのかの表情は明るくなって行った。
外に連れ出す事にも成功し、ママの店にも連れて行った。
そんな彼女の様子に、油断していたのだろう。
俺は、口を滑らして、店の子たちが話していた『彼氏』の話題に触れてしまった。
とんでもない地雷を踏んでしまったようだ。
ほのかは喚き散らしながら暴れた。

「出て行け!もう顔も見たくない。二度と来るな!」

そう言われて、俺は何も言わずに玄関に向った。
靴を履き、立ち上がると、背中を何発も拳で叩かれた。

「帰れと言われて本当に帰るような奴は二度と来るな!」

振り返ると、涙でベソベソになったほのかが抱き付いてきた。
暫くそうしていると、やがてほのかは泣き止んだ。

「せっかくの美人が台無しじゃないか」

そう言ってハンカチを渡すと、ようやくほのかは落ち着きを取り戻した。
俺は靴を脱いで部屋に上がると、爆撃後のような惨状の室内を片付け始めた。
とりあえず片付けが終わり、腰を降ろして休んでいると、
俯いて黙り込んでいたほのかが立ち上がった。

「?」

「ねえ、見て」

見上げる俺にそう言うと、彼女は服を脱ぎ出した。
俺は、黙って彼女を見ていた。
震えながら服を脱ぎ、全裸になった彼女は胸や股間を隠していた手を外して、
もう一度言った。

「見て」

「・・・・・・」

「私、女になったのよ。・・・今はね、結婚だって出来るの。・・・私、キレイ?」

「ああ、キレイだよ」

「でもね、彼は私を抱いてはくれなかった・・・・・・
 彼の為に、彼に喜んで欲しかったのに・・・・・・
 あの人は・・・・・・女になった私を捨てて逃げたのよ!」


出会った時、ほのかの彼氏は大学生だったそうだ。
飲み屋でコンパの二次会をしていた彼らと、
仕事帰りに飲みに繰り出したほのか達は意気投合して、
そのまま三次会に繰り出したそうだ。
ほのかがメアドの交換をした事も忘れかけた頃に、
大学生の男から誘いのメールが入った。
暇潰しのつもりで誘いに応じたほのかを男はその後も誘い続けた。

何度も逢瀬を重ねて、ほのかの中で男の存在が大きくなってきて、
あぶない、そろそろ『潮時』だと思っていた頃に告白されたそうだ。
告白されたその場で、ほのかはカミングアウトした。
だが、男は驚いたものの、引かなかった。
『一度関係を持てば彼の目も覚めるだろう。最後に一度だけなら』
そう思ってホテルに行ったそうだ。
『・・・・・・これで終わった』と思ったが、彼はほのかから去らなかった。
やがて、彼は卒業し、社会人となった。
仕事に慣れ、社員寮から出た彼はほのかに言った。
「一生傍にいて欲しい。一緒に暮らそう」と。

彼の家族は、一人息子がニューハーフと同居する事に激しく反対した。
一緒になるなど論外だった。
家族の激しい反対に遭ったが、彼は家族よりもほのかを選んだ。
そんな彼の行動に、ほのかは長年悩んできた性転換手術を受ける覚悟を決めた。
女性の身体になることは彼女にとって長年の夢だったが、
手術への恐怖心が大きく、それまで踏み切る事が出来なかったのだ。
何度もカウンセリングを受け、面倒な手続きを経て
彼女は決死の覚悟で手術を受けた。

術後、患部が安定するには半年程度の時間が掛かるそうだ。
だが、医師の許可が出て1年以上経っても、
彼はほのかの身体に触れようとしなかった。
そして、何か悩んだ様子で、外泊も多くなっていた。
ある日、『一生分の勇気』を振り絞って、彼女は彼に言った。

「抱いて」

服を脱いだ彼女の身体を見て彼は言った。

「・・・・・・すまない」

そのまま彼は部屋を出て行き、二度と戻る事は無かった。

「酷い話だな・・・」

「でしょ?だから、アイツの荷物は全部捨ててやったし、
 写真も全部燃やしたわ。
 彼の事は吹っ切れてるのよ・・・・・・
 ただ、女としての自信というか、プライドがね・・・・・・」

見え見えの嘘だったが、俺は頷くしかなかった。
「ねえ、良かったら、兄さんが私を『オンナ』にしてくれる?
 ・・・兄さんなら、いいかな・・・」

「悪いな、それは出来ない」

「何で?やっぱり、私って魅力ないのかな?」

「いや、そんな事は無いよ」

「それなら何で?・・・・・・まだ、姉さんのことが?」

「・・・・・・」

「ごめん、変な事を言って・・・・・・忘れて!」

俺は、ほのかの相手の男の事を調べた。
男の居所は、あっさりと割れた。
男は勤務先を退職し、実家に戻っていた。
俺は、男の実家に向かった。
 

ほのかの男・・・宗一郎の父親は、彼とほのかの同棲中に癌で亡くなっていた。
息子に取り次いで欲しいと彼の母親に頼んだが、
俺がほのかの縁者だと聞くと、彼女は頑なにそれを拒んだ。
連絡先だけ残してその場を立ち去ると、
後日、宗一郎本人から俺の携帯に連絡が入った。
待ち合わせの場所に行くと、従妹だという若い女が待っていた。
事と次第によっては、1・2発ぶん殴ってやりたいと思っていたが、
それは出来なかった。
ベッドに横たわる、余り先の長そうではない病人・・・・・・
それが、宗一郎だった。
事情がありそうだ・・・・・・
俺は、宗一郎にほのかの許を去った理由を尋ねた。

ほのかの治療中、宗一郎は微妙な体調の変化を感じていた。
妙に体がだるく、首や肩に常に鈍痛を感じていた。
世話女房タイプのほのかは店に出ていた頃から、家事の一切を行っていて、
宗一郎には何もさせようとはしなかったらしい。
慣れない家事や、ほのかの見舞い、忙しくなってきた仕事・・・・・・
それらの無理が溜まって疲れている、その程度に考えていたらしい。
ほのかの術後の痛みは相当酷かったらしく、
宗一郎はほのかの身の回りの世話に精一杯で、
自らの体調を気にする余裕は無かった。

だが、宗一郎の体調は確実に悪化した。
はじめは、指先の痺れや頻発する『こむら返り』といった症状だった。
やがて、不意に膝から力が抜けて転倒したり、軽い『寝小便』をするようになった。
『医者に見てもらわなければ』と思ったらしいが、
日常生活が忙しく、ズルズルと時間が過ぎた。
そして、会社の定期健診で異常が見つかった。
再検査の結果、肺と胃、頚椎に腫瘍が見つかったらしい。

若い宗一郎の病気の進行は早く、検査で発見された時点で既に手遅れだった。
持って1年と言う宣告に、宗一郎は打ちのめされた。
ほのかに何て話せば良いのだろう?
そう悩んでいた時に、あの夜が訪れた。

「何故逃げた?」と言う俺の問いに、宗一郎はこう答えた。
「もうすぐ居なくなる自分のせいで、ほのかに取り返しの付かない事をさせてしまった。 そう考えたら、怖くなって逃げ出してしまった」
 
「アンタに去られたほのかは、今は何とか落ち着いてるけど、
 一時は自殺の心配をされる位に落ち込んでいたんだぜ?
 そうなる事くらい、アンタにだって判っただろう?」

「俺は、どうすれば良かったんですか?」

「俺にも経験があるから言うけど、あの手の女は特別に情が深いんだ。
 並のダメ男じゃ見捨ててはくれないよ。
 望み通りに抱いてやれば良かったんだよ。
 抱きながら、死にたくねえってアンタが涙の一つも見せれば、
 こんな面倒な事にはならなかったんだ。
 大事な時間を無駄にしやがって・・・。アンタ、ほのかに会いたいんだろ?」

宗一郎は頷いた。
「アンタが会いたいと言っても、ほのかがウンと言うかは判らないぞ?
 それに、そこの彼女の許しも貰わないとな」

「姐さん、ほのかが彼に逢うことを許してやってくれないかな?
 アンタには酷な話かもしれないけど。頼むよ」

女の顔は強張っていた。だが、彼女はこう答えた。
「宗ちゃんが会いたいと言うなら・・・・・・」

「そうか、ありがとう」
今週中に連絡すると言って俺は病室を後にした。
 

駐車場で俺は肩を叩かれた。
宗一郎の母親だった。
「お話があります」
深刻な表情の母親を乗せて、俺は車を出した。


スタンドに車を入れ、併設されていたドトールに俺達は入った。
「それで、話って?」
硬い表情のままだった彼女は、しばしの沈黙の後、重い口を開いた。
「お願いです・・・ほのかさんを息子に会わせるのは止めて貰えませんか?」

「何故?」

「私達親子はあの人に恨まれています。
 私、あの人にとても酷い事を言ったの・・・
 ・・・私なら絶対に、一生許せないような酷い事を・・・・・・
 許して欲しいなんて言えないし、
 私の事だったらどんなに恨んでもらっても構わない。
 でも多分、ほのかさんは、あの人を捨てた息子を恨んでる・・・・・・」

「何故、そんな風に思うのですか?」

「こんな事、言った所で信じては貰えないでしょうけど・・・
 私は見たの!何度も、何度も!」

「何を?」

「あの人の・・・・・・何て言うの?怨霊?亡霊? 
 それが、息子に取り憑いているのよ!」

母親の言葉を聞いて、俺はようやく納得した。
ほのかの部屋に漂う異様な気配はそう言うことかと。

「お母さん、人を呪わば穴二つって言葉は知ってますよね?
 貴女は多分、ほのかに初めて会ったときから、
 そして、宗一郎君が病気になってからも、
 ずっと思っていたんじゃないですか?
 『あの女さえ居なければ』と・・・・・・
 それに、こうも思っていた。
 宗一郎君の病気の発見が遅れて手遅れになったのは、ほのかの所為だと・・・」
彼女は俯いたまま涙を流した。

「貴女が病室で見たほのかの『生霊』を怨霊だと思ってしまったのは、
 貴女が彼女に抱いている感情がそう見せているだけですよ。
 あの娘と知り合って長いし、
 俺にもあの娘と同じような境遇の彼女がいたから判るんです。
 ほのかは貴女に言われた事で傷付きもしたし、
 悔しさや悲しさに涙も流しただろうけど、
 多分、貴女に対する恨みなんて忘れてしまってますよ。
 それより、総一郎君に会いたいって気持ちで一杯のはずです。
 それこそ、生霊を飛ばしてしまうほどにね」

「・・・・・・」

「ほのかは今、精神的に危ない状態なんです。
 何とかバランスを取っているけれど、
 ちょっとしたショックでどう転ぶか判らない。
 嫌われて捨てられたと誤解したまま、宗一郎君が亡くなったら、
 後を追いかねない・・・・・・あの娘には宗一郎君しか居ないんです。
 ・・・・・・彼との思い出があれば、多分、あの娘は生きて行けます。
 だから、彼女が彼に会う事を許してやって下さい」

俺は、ほのかに宗一郎の病気の事を話した。
始めは駄々を捏ねたが、病院まで無理やり連れて行くと後は流れに任せるだけだった。
宗一郎は余命1年の宣告を受けてから、3年間近く生き続けた。
 

宗一郎の通夜の日。
焼香を済ませて立ち去ろうとする俺に声を掛けてきた女が居た。

「私の事、覚えてます?」

「ああ、病院で会った・・・。その節はどうも」
母親と交代で宗一郎の看病をしていた従妹だった。

「ほのかに会っていかないんですか?呼んできましょうか?」

「いいよ」

「それじゃ、ちょっと私に付き合って下さい」

俺達は、葬儀場の直ぐ近くの喫茶店に入った。
ショートケーキを頬張り、飲み物を啜りながら彼女は言った。

「私、貴方を恨んでます」

「・・・・・・そうか」

「そうです!貴方が来なければ、最期まで宗ちゃんを独占できたのに!」

「悪かったな」

「それに、ほのかなんて大嫌いでした」

「・・・・・・」

「私、ずっと宗ちゃんが大好きで、やっと気持ちを伝えたのに、
 好きな人が居るからって・・・・・・
 会った事無かったけど、ほのかも宗ちゃんも居なくなっちゃえって思ってました」

「伯母様に、ほのかの事は聞いていたから、
 どんなキモイのを連れてくるかと思ってたけど・・・・・・
 ほのか・・・・・・悔しいくらいキレイで・・・・・・いい子だったんですよ。
 嫌な奴だったら良かったのに・・・・・・私にまで優しくて・・・・・・
 私が男だったら放って置きません」

「それで、俺にどうしろと?」

「ほのかとの友情に免じて、ここの支払いで許してあげます」

涙を拭きながら、彼女は店員を呼んだ。
「すみません、シフォンケーキを一つ。コーヒーのお代わりもお願いします!」

俺は、ぬるくなった珈琲を飲み干した。


おわり


次回の話を読む


【引用元:
死ぬ程洒落にならない話を集めてみない?

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この記事へのコメント

  1. 怖い名無しさん 2014年02月27日 18:44:37

    いつもよりちょっと和むというか…泣きそう!
  2. 怖い名無しさん 2014年07月22日 11:02:25

    なんだコレ、ジーンときた
    。・°°・(>_<)・°°・。
  3. 怖い名無しさん 2015年06月02日 00:24:44

    鬱陶しい説明的な話の流れが無い、こういう話を待ってた!
    でもドキドキ感より切ない話で、胸がじんわりした


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